自明

自明（じめい）は、天明4年（1784年）にこの世に生を受け、文政9年11月12日（1826年12月10日）にその生涯を終えた、江戸時代後期に活躍した俳人です。羽田を姓とし、通称としては助左衛門を名乗りました。自明という俳号の他に、白羽堂や三夜亭といった別号も用いました。

生まれた地は、加賀国河北郡高松村。現在の石川県かほく市にあたります。幼名は平太郎といいました。羽田家の一人息子として大切に育てられ、幼い頃から並外れた才能を示し、「神童」と称されるほどの誉れを受けていたといいます。俳諧の世界では、当時、俳壇で名声を得ていた成田蒼虬の門下に入り、その教えを受けました。実生活においては、米穀商を経営することで生計を立てていました。これは、当時の俳人の中には本業を持ちながら活動する者が少なくなかったことを示しています。

家庭では、羽田家の本家筋にあたる羽田佐兵衛の娘、八重を妻に迎えました。八重との間には、喜四郎、弥三佐衛門、弥三次郎の3人の息子と、2人の娘をもうけました。特に三男の弥三次郎は、後に黒田武亥という名で知られる俳人となりました。黒田武亥は文化12年（1815年）生まれで、明治3年（1870年）まで存命しており、父自明の俳句への情熱を受け継ぎ、その道を歩んだ人物です。

自明は非常に若い頃から俳諧の才能を発揮し、活発な活動を行っていました。その証拠として、寛政9年（1797年）に編纂された句集『夢のあと』に彼の作品が収録されていることが挙げられます。この句集は、俳人・暮柳舎希因の五十回忌にあたって追悼のためにまとめられたものですが、そこに当時わずか14歳であった自明の句「初秋や水打門の草の月」が選ばれて収められています。このことは、彼が早くから俳壇で注目を集め、将来を嘱望されていた存在であったことを物語っています。

さらに、翌年の寛政10年（1798年）には『白峯の春』という句集が出版されましたが、ここにも自明の俳句「日下坐や霞のおよぶ水広し」が収録されています。そして、享和元年（1801年）に刊行された『雨の橋』という句集にも「まちまちに時雨る夜の燈に」という句が含まれており、10代後半から20歳にかけての時期に、すでに複数の主要な句集に作品が採用されていたことがわかります。これは、彼の創作活動が当時の俳壇において確固たる地位を築きつつあったことを示唆しています。

俳人としての交流も広く持ち、特に弘前藩出身の俳人である内海草坡とは深い親交がありました。内海草坡は自明の俳句に感銘を受け、彼の優れた作品を選りすぐり、約300句からなる自明句集を出版しようという意欲的な計画を持っていたと伝えられています。しかし、残念ながら内海草坡がその志を果たす前に亡くなったため、この貴重な句集が世に出ることはありませんでした。もし実現していれば、自明の俳諧の全貌を知る上で非常に重要な資料となったことでしょう。

自明は江戸時代後期における加賀地方の俳壇において、重要な役割を果たした人物の一人と言えます。若くして頭角を現し、精力的に句作と発表を続けましたが、43歳という比較的若さでその生涯を閉じました。

文政9年11月12日（1826年12月10日）に死去しました。その法諡は釋現道です。

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