自然独占

自然独占とは、制度的な要因ではなく、経済的な要因によって自然に発生する独占のことです。これは、特に初期投資などの固定費用が大きく、生産規模が大きくなるほどコストが下がる「規模の経済」が働く場合に顕著に見られます。

自然独占が発生する背景

規模の経済が働く産業では、長期平均費用曲線が右下がりになります。つまり、生産量を増やすほど、製品1単位あたりのコストが低下します。このような状況下で、複数の企業が市場に参入し需要を分け合うと、各企業が固定費を負担するため非効率になります。結果として、1つの企業が需要を独占する方が、総費用を抑えられ、効率的な生産が可能となるのです。

市場競争の限界と価格規制の必要性

平均費用曲線が右下がりの産業では、平均費用は常に限界費用を上回ります。もし市場競争に基づいて価格が限界費用と一致するように決定されると、参入企業は赤字に陥ってしまいます。そのため、新規参入が抑制され、結果的に自然独占が発生します。

ただし、その産業が存在することによる社会全体の利益が赤字を上回る場合、政府は1社による独占を許可しつつ、価格規制を行うことが最適となります。これにより、企業は安定的な収益を確保しつつ、消費者は不当に高い価格を支払うことを避けられます。

自然独占の例

自然独占の代表的な例としては、初期投資が莫大な鉄道会社（特に地方の赤字路線を多く抱える鉄道会社）や電力会社、郵便事業などが挙げられます。これらの事業は、インフラとしての役割が大きく、代替が難しいため、需要家も一定の赤字転嫁を許容する傾向があります。

自然独占における注意点

自然独占は、特定の企業に独占させる根拠にはなりますが、特定の事業者を認可する根拠とはなりません。また、事業本来の採算性を裏付けることが難しい場合もあります。例えば、原子力発電事業は、電力の安定供給やエネルギー安全保障の観点から、自然独占の様相を呈していますが、その経済性については常に議論の余地があります。

原子力発電事業のように、効用が高く代替の限られるものは需要家もある程度赤字の転嫁を許容します。しかし、それが過度になると、消費者負担の増加や企業の非効率化を招く恐れがあるため、適切な規制と監督が不可欠です。

参考情報

消費者庁 市場の失敗 （1）自然独占
消費者庁 価格規制の理論

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