自由美術協会 (ベルギー)

自由美術協会（Société Libre des Beaux-Arts）

自由美術協会（Société Libre des Beaux-Arts）は、19世紀後半のベルギー美術界において重要な役割を果たした美術家グループです。1868年5月、ベルギーの首都ブリュッセルにて結成されました。

設立の背景と目的

本協会の設立は、当時のベルギーを支配していたアカデミックな美術様式や、これらによって運営されるサロン（官立展覧会）に対する反発から生まれました。年功序列や保守的な基準によって評価される既存の美術システムに対抗し、より自由で新しい芸術表現の場を創出することを目指しました。中心的な設立者は、ベルギーのフラームス＝ブラバント州にあるテルビュレン周辺の風景を描いた画家たちの集まり、いわゆる「テルビュレン派」の一員であったカミーユ・ヴァン・カンプ（Camille van Camp, 1834-1891）です。ヴァン・カンプが著したマニフェストは1869年1月に出版され、その中で彼らはフランスの写実主義の旗手であるギュスターヴ・クールベを目標とすることを明確にしました。これは、理想化や歴史的主題よりも、身近な現実や自然をありのままに描こうとする新しい潮流をベルギーに根付かせようとする試みでした。

主な活動

協会は活動期間中、主に展覧会の開催と出版活動を行いました。設立直後の1868年に最初のグループ展を開催し、その後1872年までに計3回の展覧会を開きました。これらの展覧会は、既存のサロンとは異なる視点で作品を選定し、新しい芸術家の作品を発表する重要な機会となりました。

また、情報発信にも力を入れました。1871年12月から1872年12月にかけて、作家のカミーユ・ルモニエが編集を務め、協会員が協力する形で隔週刊の美術評論誌『L'Art Libre』（自由芸術）を刊行しました。全22巻が発行されたこの雑誌は、協会の理念や写実主義の紹介、当時の美術批評などを掲載し、美術愛好家や他の芸術家たちに広く影響を与えました。さらに、1873年から1876年にかけては、『L'Art Universel』（普遍芸術）という雑誌も刊行しています。

主な参加メンバー

自由美術協会には、設立メンバーや初期参加者から、活動に賛同して後から加わった多くの美術家たちが集いました。公式な会員リストは存在しませんでしたが、創立の中心人物であるヴァン・カンプに加え、ジュール・ラーイマーケルス、エドゥアール・ユベルティ、テオドール・バロンらが初期からの重要なメンバーです。また、ヨーゼフ・コーゼマンスやアンリ・ファン・デル・ヘクトも初期から活動に参加していました。

その後、シャルル・ド・グルー、アルフォンス・アッセルベルフ、フェリックス・ブーレ、コンスタンタン・ムーニエ、フェリシアン・ロップス、イジドール・ヴェルヘイデンなど、多様なスタイルの画家や彫刻家、版画家などがグループ展に参加し、協会の活動を支えました。1872年の展覧会には、ジャン＝バティスト・マドウやジャン＝フランソワ・ポルテールといった前の世代の画家たちや、オランダからウィレム・ルーロフス、そしてダーフィット・オイエンスとピーテル・オイエンスの兄弟も参加しており、国内外からの関心を集めたことが伺えます。

影響と成果

自由美術協会の活動は、保守的だったベルギー美術界に明確な変化をもたらしました。彼らが推進した写実主義の潮流は無視できないものとなり、既存の官立展覧会にも影響を与え始めます。その象徴的な出来事として、1872年の官立展覧会では、かつてブリュッセルでの官立展覧会で落選した経験を持つ「テルビュレン派」の画家、イポリット・ブーランジェ（ヴァン・カンプの友人）の作品が金賞を受賞するという逆転現象が起こりました。また、1875年のブリュッセル官立展覧会では、写実主義の画家シャルル・エルマンの作品が広く注目を浴び、対照的に伝統的なアカデミック美術は時代遅れであるかのような扱われ方をするようになります。これは、協会が目的として掲げた、既存の価値観への挑戦とその打破がある程度成功したことを示しています。

解散とその後

一連の活動を通じて、ベルギー美術における写実主義の地位向上や、アカデミック美術中心の状況への風穴を開けるという設立当初の目的はある程度達成されたと判断されたようです。そのため、協会は1875年に解散しました。

協会のメンバーの多くは、その後も写実的なスタイルで制作を続けましたが、時代の流れとともに印象派などさらに新しい表現へと関心を移す者も現れました。こうした一部のメンバーは、後に「La Chrysalide（さなぎ）」という新たな美術家グループを結成し、ベルギーにおけるモダニズム美術の展開へとつながっていきます。

自由美術協会は、短い活動期間ながらも、権威に囚われない自由な表現の重要性を訴え、写実主義という新しい視点を導入することで、ベルギー美術史における近代化の一歩を記した重要な存在と言えるでしょう。

もう一度検索