自脱型コンバイン

自脱型コンバイン（じだつがたコンバイン）は、主に稲や麦といった穀物の収穫に用いられる農業機械です。この機械が登場する以前、農家は鎌を使った手刈りやバインダーと呼ばれる刈り取り機でまず作物を刈り取り、その後に脱穀機やハーベスターで実と茎を分けていました。しかし、自脱型コンバインは、これらの収穫に関する一連の作業（刈り取り、脱穀、選別）を一台でこなすことができる画期的な機械です。名称の「コンバイン」は、刈り取り（harvesting）と脱穀（threshing）の機能を「組み合わせた（combined）」機械であることに由来します。

普通型コンバインとの違いと日本での発展

コンバインの概念は欧米などで先行して普及していましたが、これらは刈り取った作物の茎葉全体を機械内部で処理する「普通型コンバイン」でした。日本では1960年代に普通型コンバインが導入されますが、圃場が狭いこと、特に水稲の収穫時には籾の損傷が多いことや穀粒の損失が多いことから、日本の農業環境には必ずしも適していませんでした。

こうした背景から、日本の稲作に適した機械として独自に開発されたのが自脱型コンバインです。その最大の特徴は、刈り取った作物のうち、脱穀が必要な「穂先」の部分だけを機械内部に取り込んで処理する点にあります。茎（穀桿）の大部分は脱穀部に入らないため、普通型に比べて籾の損傷や穀粒の損失を抑えることが可能です。この「穂先供給式」や「ジャパニーズ・コンバイン」とも呼ばれる独自の方式は、日本の水稲収穫において大きな利点となりました。

歴史的な流れ

日本の稲作は、江戸時代の千歯扱きや明治時代の足踏式脱穀機、唐箕といった手作業の農具が動力機械へと発展する形で進化してきました。1966年、国内メーカーによって最初の実用的な自脱型コンバインが開発されると、これを皮切りに国産機の開発・普及が加速します。当初は、コンバインが走行する通路を確保するため、端を手刈りする必要がある「側面刈り」の機種が主流でしたが、圃場の形状を選ばずに効率よく作業できる「全面刈り」の機種が登場すると、その普及はさらに進みました。1990年代には、日本の水稲作付け面積の大部分で自脱型コンバインが利用されるようになり、収穫作業の省力化と効率化に不可欠な存在となりました。また、時代の変化に合わせて、大豆や麦など水稲以外の作物にも対応できる汎用型コンバインも開発されています。

各部の機能と仕組み

自脱型コンバインは、その規模によって数馬力の小型機から100馬力を超える大型機まで多様な機種がありますが、基本的な構造は共通しています。

刈り取り部: 機体の前面または側面にあり、作物を引き起こしながらバリカン状の刈刃で根元付近から刈り取ります。刈り取られた作物は、向きを揃えられた状態で搬送部へと送られます。倒れてしまった作物（倒伏稲）の刈り取りは難しい場合がありますが、構造的な工夫や補助装置によって対応能力を高めています。
搬送部: 刈り取られた作物を、突起のついたチェーン（フィードチェン）などで脱穀部へ運びます。自脱型コンバインでは穂先だけを脱穀するため、搬送部はこの穂先が脱穀装置に適切に供給されるよう、作物の長さや状態に合わせて「こぎ深さ」を自動的に調整する機能を備えた機種が増えています。
脱穀部: 搬送部から供給された穂先部分から、回転するこぎ胴が穀粒（籾）を叩き落とします。叩き落とされた穀粒は、振動する選別板や唐箕ファンが送る風によって、藁くずや未熟な籾などから選別されます。不完全に選別されたものは再び脱穀・選別工程に戻されます（二番処理）。この穂先だけを処理する構造が、自脱型コンバインの核心部分です。
穀粒処理部: 選別された籾を貯蔵・排出する部分です。従来の「袋詰式」に加え、より効率的な「グレンタンク式」が普及しています。グレンタンクは数百リットルから数千リットルの容量があり、収穫作業を中断することなく大量の籾を一時貯蔵できます。貯められた籾は、排出用のオーガ（ラセン）によってトラックやコンテナに移されます。最近では、収穫量や水分を測定・記録できる高機能な機種も開発されています。
* 排藁処理部: 脱穀後の藁を処理します。標準装備の「カッタ」で細かく裁断し、圃場に散布することで、後の耕うん作業で土に混ぜ込みやすくします。必要に応じて藁を束ねて排出する結束機などのオプションも選択できます。

走行部と安全対策

自脱型コンバインの走行には、接地圧が低く湿田でも作業しやすいクローラ（無限軌道）が用いられています。ぬかるんだ圃場での沈み込みを防ぐため、幅広のクローラを選択できる機種もあります。また、車体を水平に保つための装置は、傾斜地や湿田での走行安定性や脱穀性能の維持に役立ちます。

操作性も進化しており、かつてのレバー操作から、自動車のようなハンドルで操縦できる機種も登場しています。また、脱穀部や刈り取り部への巻き込み事故を防ぐための緊急停止装置や、手こぎ作業時の安全装置など、様々な安全対策が講じられていますが、機械の特性を理解し、適切な服装や作業方法を心がけることが最も重要です。

自脱型コンバインは、日本の農業の省力化と近代化を支えてきた重要な農業機械の一つと言えるでしょう。

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