興宗寺 (小松市)

越前吉崎と月津を結ぶ歴史：興宗寺ものがたり

石川県小松市月津町に位置する真宗大谷派の寺院、興宗寺。その山号は牛鼻山です。一方、福井県福井市にも同名の興宗寺があり、こちらは浄土真宗本願寺派に属しています。両寺院は、同じ山号を有し、歴史的に深い繋がりを持つことから、区別するために「月津興宗寺」「福井興宗寺」と呼ばれることもあります。

両寺院の共通項は、室町時代に越前吉崎で活躍した人物、蓮如上人との関わりにあります。福井興宗寺の五世、円慶は、蓮如上人が越前吉崎に下向された際に、吉崎御坊の建立に尽力した人物でした。蓮如上人に仕えた円慶の功績は高く評価され、後に隠居の地として加賀国月津（現在の石川県小松市月津町）を選びました。この月津の地には、福井興宗寺の支院、いわば掛所が置かれました。その功績を称え、円慶は蓮如上人から牛鼻山という山号を賜ったのです。

しかし、歴史の転換期が訪れます。本願寺が東西に分立した時、興宗寺も東西に別れました。福井の興宗寺は浄土真宗本願寺派（西）となり、月津の掛所は真宗大谷派（東）として現在に至っています。現在、静かに佇む月津興宗寺は、室町時代の激動期を生き抜き、蓮如上人ゆかりの寺院として、静かにその歴史を物語っています。

月津興宗寺の歴史を紐解くと、単なる寺院の歴史を超え、宗教改革の波、そして宗教勢力の変遷が如実に映し出されています。加賀と越前の国境地帯に位置する両寺院は、地域社会における宗教的役割を担い、歴史の証人として、現在も人々の心に寄り添い続けていると言えるでしょう。

円慶という人物は、単に寺院の運営に携わった人物ではなく、時代の大きな変化の中で、宗教的信念を持ち、行動した人物であったと推察できます。蓮如上人との関係性、そして本願寺東西分立という歴史的出来事を背景に、その生涯は歴史の重要な一ページを飾っています。

月津興宗寺と福井興宗寺。同じ名前、同じ山号、そして共通の祖先とも言える蓮如上人との繋がりを持つ両寺院。その歴史は、それぞれの宗派の違いを超えて、深く繋がっています。それぞれの寺院を訪れる際には、その歴史的背景を理解することで、より深い感動と理解が得られることでしょう。異なる宗派でありながら、共通の過去を持つ両寺院の存在は、日本の宗教史、そして地域の歴史を理解する上で貴重な存在と言えるでしょう。

今、静かに佇む月津興宗寺。その佇まいには、数々の歴史が刻まれています。そして、その歴史は、単なる過去の話ではなく、現在そして未来へと繋がる、貴重な遺産なのです。

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