舘野泉

舘野泉：フィンランドを舞台に活躍するピアニストの生涯

舘野泉氏は、1936年東京に生まれ、現在フィンランドを拠点に活躍する世界的ピアニストです。音楽一家に育ち、幼少期から音楽に囲まれた環境で才能を開花させました。父はチェリスト、母はピアニスト、そして弟、妹も音楽家として活躍するなど、類まれな音楽的素養を受け継いでいます。

東京藝術大学音楽学部ピアノ科首席卒業という輝かしい経歴を持ち、レオニード・コハンスキー氏ら著名な音楽家から指導を受けました。その後、1964年にフィンランドのヘルシンキに移住し、同国の近現代音楽の演奏に尽力します。シベリウスをはじめ、メリカント、マデトヤ、パルムグレンなど、数多くのフィンランドの作曲家の作品を積極的に取り上げ、フィンランド音楽界に大きく貢献しました。特に、シベリウス作品への造詣は深く、日本シベリウス協会会長も務めています。

一方、フランスの作曲家セヴラックの作品にも造詣が深く、若い頃からセヴラックの作品をレパートリーに含め、2002年には日本セヴラック協会を設立し顧問を務めるなど、その普及にも力を注ぎました。1968年には、メシアン・コンクールで第2位に入賞するなど、国際的な舞台でも活躍を見せます。同年から国立シベリウス・アカデミー教授として後進の育成にも携わりましたが、1981年以降はフィンランド政府より芸術家年金を受け、演奏活動に専念するようになりました。

しかし、2002年、脳溢血で倒れ、右半身に麻痺が残るという大きな困難に見舞われます。リハビリを経て、右手の自由が制限された状態ではありましたが、2003年、オウルンサロ音楽祭で左手のためのピアノ作品を演奏し、見事な復活を遂げました。この経験をきっかけに、左手ピアノ作品に本格的に取り組み始め、翌年には日本で左手ピアノ作品によるリサイタルを開催し、大きな話題となりました。以来、演奏会や録音活動、新作の委嘱を通して、左手ピアノ作品の普及に尽力し続けています。

その功績は高く評価され、2012年には東燃ゼネラル音楽賞を受賞しています。日本のクラシック音楽家として初めてファンクラブが設立された人物としても知られています。演奏活動に加え、著作活動も積極的に行っており、『貨物列車のピアニスト』、『星にとどく樹』、『ひまわりの海』、『左手のコンチェルト―新たな音楽のはじまり』など、数々の著書を発表しています。また、NHKの教育番組『ピアノとともに』で講師を務めた他、数々のテレビ番組に出演し、幅広い層に音楽の魅力を伝えています。NHK大河ドラマ『平清盛』では、吉松隆作曲のテーマ曲のピアノ独奏を担当するなど、その活動は多岐に渡ります。南相馬市民文化会館名誉館長も務めるなど、地域社会への貢献も積極的に行っています。

舘野泉氏の音楽人生は、類まれな才能、たゆまぬ努力、そして困難を乗り越える強い意志によって彩られています。フィンランドを拠点としながらも、日本との深い繋がりを持ち続け、国際的な舞台で活躍する一方、後進の育成や音楽普及にも尽力する舘野氏の姿は、多くの音楽愛好家たちに大きな感動と勇気を与え続けています。

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