舟越保武

舟越保武：戦後日本を代表する彫刻家

舟越保武（1912年12月7日 - 2002年2月5日）は、20世紀後半における日本の彫刻界を代表する巨匠の一人です。佐藤忠良氏と共に戦後日本の具象彫刻を牽引し、新制作協会彫刻部創立会員、東京藝術大学名誉教授という輝かしい経歴を持ちます。岩手県出身で、文化学院を経て東京美術学校（現東京藝術大学）彫刻科を卒業しました。

直彫りによる石彫の開拓

舟越保武氏の芸術における最大の功績は、何と言ってもその卓越した石彫技術にあります。日本で石彫がまだ一般的ではなかった時代から、大理石や砂岩といった素材に挑み、独自の表現方法を確立しました。彼の作品は、素材の持つ自然な質感や力強さを最大限に活かし、繊細かつ大胆な表現で観る者を魅了します。その多くは、魂のこもった直彫りによって生み出されており、まさに彫刻家としての真摯な姿勢が感じられます。

キリスト教信仰と彫刻

熱心なカトリック信者であった父親の影響を受け、舟越保武氏は生涯を通じてキリスト教信仰を深く持ち続けました。特に、長男の夭折を機に家族で洗礼を受け、カトリックに帰依。その信仰は、彼の彫刻作品に大きな影響を与えました。キリスト教の聖人や、キリシタンの迫害といったテーマの作品も多く手がけ、宗教的な深みと力強さを備えた作品群を生み出しました。代表作である「長崎26殉教者記念像」は、その信仰と芸術性を融合させた象徴的な作品と言えるでしょう。

家族と芸術

私生活では、画家である妻との間に6人の子供をもうけました。その中でも、次男の舟越桂氏と三男の舟越直木氏も彫刻家として成功を収め、日本の彫刻界に大きな足跡を残しています。また、娘の末盛千枝子氏は児童文学編集者として活躍し、「すえもりブックス」を経営するなど、家族全員がそれぞれの分野で才能を発揮しています。

主要な作品と受賞歴

舟越保武氏は、数々の賞を受賞し、その芸術的才能を高く評価されました。高村光太郎賞、中原悌二郎賞、長谷川仁記念賞、芸術選奨文部大臣賞など、権威ある賞を次々と受賞。また、パウロ6世より大聖グレゴリオ騎士団長勲章を受章するなど、国際的にも認められました。その作品は、各地に設置され、人々の心を豊かにしています。代表的な作品として、「長崎26殉教者記念像」、「原の城」、「病醜のダミアン」、「道東の四季－春－」などが挙げられます。これらの作品は、彼の高度な技術と深い精神性を反映した、まさに彼の芸術人生の集大成と言えるでしょう。

後世への影響

舟越保武氏の作品は、日本の彫刻界に大きな影響を与え続け、多くの後進の彫刻家たちに刺激を与え続けています。彼の芸術への情熱、そして技術は、後世の彫刻家たちに受け継がれ、日本の彫刻文化の発展に大きく貢献しています。晩年は脳梗塞で右半身不随となりましたが、左手で創作を続け、89歳で生涯を終えるまで、創作活動を続けました。

著作

芸術家としての活動以外にも、エッセイ集『巨岩と花びら』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞するなど、文筆活動でも才能を発揮しました。彼の著作は、彼の芸術観や人生観を知る上で貴重な資料となっています。

舟越保武氏は、優れた彫刻家であると同時に、深い信仰心と豊かな人間性を持ち合わせた人物でした。彼の作品は、これからも多くの人々の心に感動を与え続けることでしょう。

もう一度検索