船舶登記

船舶登記とは

船舶登記は、特定の船舶に関わる私法上の権利関係、具体的にはその所有権、賃借権、および抵当権を社会一般に明らかにする（公示する）ための法的な手続きです。この制度は、取引の安全を確保し、第三者に対して権利の存在を主張できるようにすることを目的としています。船舶に関する法律である商法や船舶法などの規定に基づいて実施されます。

似た制度に船舶登録がありますが、こちらは船舶の行政的な監督を目的としており、船舶登記とは制度の趣旨が異なります。一部の国では両制度を統合している例も見られますが、日本では船舶登記と船舶登録はそれぞれ独立した制度として運用されています。

船舶登記の仕組みは、私法上の権利公示という点で不動産登記と共通する部分が多く、不動産登記法の規定が多数準用されています。しかし、不動産登記に比べて登記できる権利の種類は限定されており、船舶所有権、船舶賃借権、船舶抵当権のみが対象となります。

対象となる船舶

船舶登記の対象となるのは、原則として日本の国籍を有する船舶のうち、総トン数が20トン以上の大型船舶です。総トン数20トン未満の小型船舶や、主に櫓（ろ）や櫂（かい）によって航行する舟は、船舶登記の適用外とされています。船舶の所有者は、この登記手続きを行った上で、その船舶の船籍港を管轄する官庁の船舶原簿に登録する義務があります。この登録手続きが完了すると、その船舶が日本の船舶であることを証明する船舶国籍証書が交付される流れとなります。登記を要する船舶は「登記船」あるいは「登簿船」、登記を要しない船舶は「不登記船」あるいは「不登簿船」と呼ばれます。

登記できる権利の種類

船舶登記では、以下の3種類の権利に関する登記が可能です。

船舶所有権の登記

船舶所有権は、船舶登記の中心となる権利です。商法の特別の定めにより、船舶所有者はまず船舶所有権保存登記を行い、船舶国籍証書の交付を受ける必要があります。これにより、船舶所有権の発生が公示されます。

船舶の所有権が移転した場合、不動産登記とは異なり、単に船舶所有権移転登記を行っただけでは第三者に対抗するための要件を満たしません。権利の移転を第三者に主張するためには、この登記に加えて、船舶国籍証書にその旨が記載されることが必須となります。これは船舶という動産の特殊性に配慮した規定といえます。

船舶賃借権の登記

船舶の賃貸借契約を結んだ際に、その賃借権を登記することができます。賃借権が登記されると、その後に当該船舶に対して物権を取得した者（例えば、新所有者や抵当権者）に対しても、賃借権の存在とその内容を主張することが可能になります。これにより、賃借人の権利が保護されます。

船舶抵当権の登記

船舶登記が行われている船舶は、抵当権を設定する目的物とすることができます。船舶抵当権を設定すると、登記によりその権利が公示され、債務不履行があった場合に船舶を競売にかけるなどして債権を回収する担保とすることができます。船舶抵当権の効力は、抵当権を設定した船舶本体だけでなく、その船舶に備え付けられている属具（航海用具や救命具など、船舶の使用に不可欠なもの）にも及びます。

申請代理人

船舶登記の申請手続きは、専門的な知識が必要となるため、以下の専門家が代理人として行うことが認められています。

海事代理士
司法書士
* 弁護士

これらの専門家は、所有者やその他の権利者の委任を受けて、登記申請書の作成や提出、登記官とのやり取りなどを行います。

船舶登記制度は、高価な資産である船舶の取引や融資における権利関係の安定化、明確化に貢献する重要な制度です。関連する用語として、船籍や登記全般の知識も参考にすると、より理解が深まるでしょう。

もう一度検索