芋川用水

芋川用水

芋川用水は、長野県信濃町戸草の鳥居川から取水し、飯綱町を経由して斑尾川へと合流する全長29kmの農業用水路です。この用水路は、開削から400年もの間、地域一帯の農地を潤し続けてきました。

歴史

事業の開始

平安時代には、芋川一帯に芋川氏の荘園が拓かれ、斑尾川を水源とした稲作が行われていました。しかし、室町時代から江戸時代初期にかけて米の需要が増加し、新たな水源として鳥居川に目を向け、用水路の開削が計画されました。

当初、長野市篠ノ井の清水戸右衛門が事業に携わり、芋川の中村大樋までの21kmが開通しました。その後、飯山藩の野田喜左衛門が事業を引き継ぎ、東柏原までの8kmが追加で開削されました。開削年については諸説ありますが、江戸幕府が開府した1603年とする説が有力です。

善光寺地震による被害と掘り貫き工事

1847年の善光寺地震により、用水路の難所が甚大な被害を受け、通水が不可能になりました。復旧のため、関係者は戸草の屏風岩から芋川村坂下までの約721間を直線で掘り貫く計画を決定しました。技術者確保のため、江戸の棟梁、高田屋喜三郎に設計と指導を依頼。工事は1847年9月に着工し、翌年3月3日の完成を目指しましたが、難工事のため多くの犠牲者が出ました。

最終的に、工事は地震から2年後の1849年8月に貫通し、同年9月20日に通水式が行われました。しかし、翌1850年1月には掘り貫きの下流出口が崩落。人力での復旧が困難だったため、当初の契約通り、従来の用水路を修理して通水することになりました。

土地改良事業による近代化

従来の盛り土と切り通しによる用水路は、洪水による崩落や漏水が頻発し、水争いの原因となっていました。そこで、1979年から県営灌漑排水事業が開始され、主に3面コンクリート張りへの改修が進められました。工事期間は、水田が水を必要としない9月上旬から11月下旬に限られ、年間を通じての作業期間が短いため、改修は少しずつ行われました。1998年に事業は「農業用水再編事業」に引き継がれ、2005年時点で約70%が竣工し、2008年まで事業が続けられる予定でした。

構造・用水設備

当初は石積みと盛り土で造られた芋川用水ですが、改修工事により、ほとんどが3面コンクリートになっています。用水路と並行して管理道路が設けられ、平均勾配は1パーミルです。山の北側を迂回する場所では勾配が急になり、南面の日当たりの良い場所では勾配が緩やかになるように設計されています。これにより、水温を調整し、水田に適した温度で水を供給する工夫がされています。用水路から水田へは、樋を通して水が供給されます。

取り入れ口

信濃町戸草には、鳥居川から芋川用水への取り入れ口があります。1995年の洪水により取り入れ口は大きく破損しましたが、その後復旧されました。取り入れ口の脇には水神が祀られ、毎年4月20日に水神祭が行われます。伝承によれば、水が流れ込まないことに苦悩する清水戸右衛門の妻が人柱となり入水したところ、水が流れ込んだとされています。

紫岩

取り入れ口から3.5km下流はV字谷となっており、「屏風岩」や「大曲」といった難所が続きます。「紫岩」は、断崖を掘ってトンネル状にしたものですが、岩盤が脆いため、芋川隧道が開通してからは使用されなくなり、現在では崩落したままとなっています。

芋川隧道

1971年に開通した全長約1kmのコンクリート製トンネルです。

はせ工作

芋川の若宮では、芋川用水と斑尾川が交差しています。かつては、用水路が斑尾川の下を通るように造られ、旱魃時には斑尾川の水を取り込む仕組みがありましたが、改良工事後は、用水路が斑尾川の上を通るようになりました。

管理

芋川用水は、開削当初から地域住民が管理に携わってきました。現在でも、地元住民の手によって維持管理が行われています。年間を通じての主な作業は、4月の「常浚い」と7月の「青刈り」です。常浚いでは、河床に堆積した土砂の除去や倒木の撤去を行います。青刈りは、用水路両岸の草を刈り取る作業です。近代化工事によって、以前は1日かかっていた常浚いの作業も、現在は3時間程度で済むようになりました。

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