芥川仁

芥川 仁（あくたがわ じん）

1947年、愛媛県今治の地に生を受けた日本の写真家です。社会の出来事や人間の営み、そして自然の風景に真摯に向き合い、精力的に撮影活動を行っています。その作品は、時に社会的なメッセージを帯び、時に自然の持つ静かな力強さや美しさを捉え、見る者に深い問いかけを投げかけます。

生い立ちと写真家への道

高校時代を宮崎県立宮崎南高等学校で過ごし、1966年に卒業。その後、法政大学第二社会学部で学び、1970年の卒業後、フリーランスの写真家としてのキャリアをスタートさせました。初期には社会の様々な側面に関心を寄せ、1972年には「6・3制夜間中学の顔」と題した写真展を銀座ニコンサロンで開催するなど、教育現場や人々の生活をテーマにした作品を発表しています。

フリーランスとなってからは、伊豆大島で約5年間、そして水俣病の問題が深く刻まれた水俣市で約2年間を過ごし、精力的な取材活動を行いました。これらの土地での経験は、その後の写真家としての活動に大きな影響を与え、社会のひずみや環境問題、そこで生きる人々の姿を深く見つめる原点となりました。

宮崎での活動と主なテーマ

1980年からは宮崎市に拠点を移し、現在に至るまで活動を続けています。宮崎を拠点としながらも、活動の対象は広範に及び、特に水俣や土呂久といった場所で起きた環境問題とその影響を記録する写真には、一貫した強いメッセージが込められています。1980年の写真展「水俣・厳存する風景」や1985年の「土呂久鉱毒追想」（いずれも銀座ニコンサロン）は、これらのテーマに対する深い関心を示すものです。

しかし、その眼差しは社会問題だけに留まりません。宮崎の豊かな自然や、そこに根ざした人々の暮らし、そして歴史や文化にも向けられています。「植物の記憶」（1987年）や「屹立する神々」（1995年）、そして「四十六億年の囁き」（1998年）といった写真展は、自然の摂理や時の流れ、神話的な世界観をも捉えようとする試みであり、作品世界の幅広さを示しています。

受賞と社会的活動

長年の活動の成果として、1992年には写真集『輝く闇』により宮日出版文化賞に輝きました。これは、光と影、生と死、あるいは希望と絶望といった二項対立的なテーマを深く掘り下げた作品として高く評価されたものです。

写真家としての社会的活動にも熱心に取り組み、2001年には日本写真家ユニオンの設立発起人の一人として、その創設に深く関わりました。また、日本写真家協会の会員としても活動しており、写真界の発展や写真家の権利向上にも貢献しています。2012年には、自身の活動基盤として株式会社芥川仁を設立しました。

主な写真展と著書

これまで開催された主な写真展には、「6・3制夜間中学の顔」（1972年）、「水俣・厳存する風景」（1980年）、「土呂久鉱毒追想」（1985年）、「植物の記憶」（1987年）、「輝く闇」（1992年）、「屹立する神々」（1995年）、「四十六億年の囁き」（1998年）などがあります。

また、多数の写真集や共著を出版しています。主な著書には、『水俣・厳存する風景』（1980年）、『土呂久・小さき天にいだかれた人々』（1983年）、『輝く闇』（1991年）、藤本寿子氏との共著『水俣海の樹』（1992年）、『銀鏡の宇宙』（1995年）、『リトルヘブン 鏡野物語』（2001年）、津村重光氏、黒岩比佐子氏との共著『津村重光の本』（2002年）、『春になりては…椎葉物語』（2003年）、森永都子氏との共著『呼吸する原っぱ』（2004年）、桑原史成氏ら7人の写真家との共著『水俣を見た7人の写真家たち』（2007年）、『病院—フォトエッセイ』（2008年）などがあり、多岐にわたるテーマへの関心と、写真を通じた表現活動の広がりを示しています。

芥川仁氏は、長年にわたり社会と自然、そして人間のあり様を見つめ続け、その深い洞察を写真という形で表現してきました。その作品群は、現代社会が抱える問題や、忘れられがちな風景、そして力強く生きる人々の姿を私たちに伝え続けています。

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