花咲舞が黙ってない (小説)

『花咲舞が黙ってない』：不正に挑む銀行員の物語

池井戸潤氏による経済小説『花咲舞が黙ってない』は、2016年に『読売新聞』朝刊で連載され、その後、単行本、文庫本として刊行された人気作品です。2020年には、単行本未収録の短編「犬にきいてみろ」を追加した新装増補版が発売され、さらに注目を集めました。本書は『不祥事』に続く花咲舞シリーズの続編であり、テレビドラマのノベライズではありません。

物語の中心は、東京第一銀行の事務部臨店指導グループに所属する、鋭い観察眼と正義感を持つ女性行員・花咲舞です。彼女の頼もしい上司である相馬健とともに、様々な不正や事件に立ち向かっていきます。

ストーリーの要約

物語は、取引先の内部情報漏洩事件の調査から始まります。花咲舞と相馬健は、企業の不正や融資に関する問題、粉飾決算といった様々な事件を調査し、真相を解き明かしていきます。

具体的なエピソードとして、以下のような事件が描かれています。

飲食店レッドデリへの情報漏洩事件: 競合他社への情報漏洩という企業不正の調査から物語は幕を開けます。
アクアエイジにおける入金トラブル: 新橋支店の取引先企業で発生した入金トラブルを通して、花咲舞は不審な点に気づいていきます。
老舗旅館白鷺亭への融資: 東京第一銀行と産業中央銀行の合併発表を背景に、白鷺亭への融資を巡る思惑が複雑に絡み合います。
舟町ホームの手抜き工事: 新宿での大規模な暴走事故をきっかけに、融資先企業の手抜き工事が発覚し、産業中央銀行の不審な行動に焦点が当たります。
神保町奇譚: 高齢女性の相談から始まる、不可解な口座取引の謎に挑みます。
東東デンキの粉飾決算: 大手電機メーカーの巨額の粉飾決算の発覚を通して、銀行の財務分析や監査体制の問題点が浮き彫りになります。
シマタニ不動産への融資: 相馬が異動した希望ヶ丘派出所を舞台に、新たな疑惑が生まれます。
特別収録短編「犬にきいてみろ」: 花咲舞が人生初のお見合い相手である町工場の社長から経営相談を受けるエピソードが描かれています。

これらの事件を通して、花咲舞と相馬健は、銀行内部の複雑な人間関係や、企業の不正、そして社会問題に鋭く切り込んでいきます。

登場人物

本作には魅力的な登場人物が多く登場します。主人公の花咲舞と相馬健の他、東京第一銀行の事務部長である辛島伸二郎、企画部特命担当調査役である昇仙峡玲子、頭取である牧野治など、様々な立場の人物が物語を彩ります。また、産業中央銀行からは、『半沢直樹シリーズ』でお馴染みの半沢直樹が登場し、銀行合併という大きな出来事を背景に、物語に深みを与えています。

作品の魅力

『花咲舞が黙ってない』は、単なる経済小説にとどまらず、社会問題や人々の生き様を深く描いた作品です。銀行という舞台を通して、企業の不正や金融システムの問題点、そして人間の欲望や葛藤がリアルに描かれています。テンポの良い展開と、緻密な構成、そして魅力的な登場人物たちが、読者を最後まで引き込みます。さらに、2024年にはテレビドラマ化もされ、幅広い層から支持を得ています。オーディオブック版も配信されており、朗読によって物語の世界をより深く楽しむことも可能です。

書籍情報

中公文庫版 (2017年9月5日発行)
講談社文庫 新装増補版 (2020年12月15日発行)

本書は、経済小説として高い評価を得ているだけでなく、社会派エンターテインメントとしても楽しめる作品です。ぜひ一度手に取ってみてください。

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