花婿失踪事件

『花婿失踪事件』

『花婿失踪事件』（はなむこしっそうじけん）は、イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルによるシャーロック・ホームズシリーズの一篇で、1891年に『ストランド・マガジン』に初めて掲載された。これは56篇ある短編小説の中で3番目に発表されたもので、1892年に発行された短編集『シャーロック・ホームズの冒険』にも収められている。

あらすじ

物語は、ホームズがワトスンと雑談を楽しんでいる場面から始まる。彼は最近の事件が興味をそそらないと不満を漏らしていたところ、依頼人のメアリー・サザーランドが訪れる。メアリーは母親と再婚相手のウィンディバンクと共に暮らしており、一定の収入を得ている女性である。だが彼女は、非常に若い継父から男友達との交際を禁じられている。

そんな中、メアリーは舞踏会でホズマー・エンジェルという男性と出会い、間もなく婚約した。エンジェルは同僚の会計士であるものの、会社名や居住地を教えてくれず、全ての手紙はタイプライターで打たれて送られてきた。彼はウィンディバンクがフランスにいる間に結婚式を挙げようと約束するも、その日に現れないまま失踪してしまう。

メアリーは、エンジェルが自分を捨てるような人ではないと信じ、何か悪いことが起きたのだと考え、ホームズに助けを求めることになる。ホームズはエンジェルから送られてきた手紙の内容を調査し、その署名がすべてタイプライターで打たれている点に注目する。彼はこの筆跡が身元を隠すためのものであると推理し、ある会社へ書簡を送り、さらにウィンディバンク本人にもアプローチする。

ウィンディバンクがホームズの前に現れた際、ホームズはエンジェルからの手紙とウィンディバンクの手紙が同じタイプライターで打たれたものであることを指摘し、驚愕の事実を明らかにする。エンジェルとウィンディバンクが同一人物であることを暴露し、メアリーに対する禁じられた交際の背景を探ると、ウィンディバンクの策略が浮かび上がる。メアリーとの結婚によって彼の収入が失われることを恐れたウィンディバンクは、変装して舞踏会へ参加し、メアリーを近づけ、自らの正体が知られないようにしていたのだ。

結婚式での失踪も、ウィンディバンクが計画的に行ったものであり、この驚きの事実を聞いたウィンディバンクは取り乱し、恐怖に駆られて部屋から逃げ出してしまう。ホームズの推理が的中したことに、メアリーは驚きながらも安堵し、彼女の人生に新たな一歩を踏み出す決意をするのだった。

制作と発表の経緯

この短編が発表された背景には、ドイル自身が原稿を送った際に順序が逆になったことがある。実際には「花婿失踪事件」は短編として3番目に発表されたが、執筆されたのは「赤毛組合」の前であったことが調査で明らかになった。発表された際の混乱により、編集部が順序を取り違えたため、この短編が後に掲載されることとなった。

このように、エンターテイメント性とサスペンスに満ちた「花婿失踪事件」は、読者にシャーロック・ホームズの魅力を伝える素晴らしい作品だ。

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