花束を君に

「花束を君に」：宇多田ヒカルの鎮魂歌と再生の物語

2016年4月、約6年ぶりに音楽活動を再開した宇多田ヒカル。その第一弾シングルとして配信リリースされた「花束を君に」は、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の主題歌に起用され、大きな話題を集めました。この曲は、単なる主題歌の枠を超え、宇多田ヒカル自身の心の内を深く反映した、深く感動的な作品となっています。

沈黙からの再生：母への鎮魂と新たな出発

2010年から音楽活動を休止していた宇多田ヒカル。その期間、彼女は母・藤圭子の死という大きな悲しみを経験します。インタビューで語られる彼女の喪失感、音楽活動への迷いは深く、復帰への道は険しいものでした。しかし、第一子出産を機に、「親になる」という責任感から、再び音楽に向き合う決意を固めます。

「花束を君に」は、まさにその決意と、亡き母への深い想いを込めた作品と言えるでしょう。同時に、NHKという国民的な番組の主題歌という責任感も、宇多田ヒカルの創作意欲を刺激したようです。楽曲制作は、先に制作された「真夏の通り雨」に続いて行われましたが、国民的な番組の主題歌として、より多くのリスナーに響くような歌詞を意識して制作されたと語られています。

制作：国際的なチームとオーガニックなサウンド

レコーディングは、ロンドンのスタジオで行われ、宇多田ヒカルが現地で集めたミュージシャンたちが参加しました。ドラムは、数々の名作に参加してきたイアン・トーマス、ベースとギターには、宇多田ヒカルの復帰後作品に多く携わることになるベン・パーカー、ストリングスアレンジにはジャミロクワイやビョークの作品を手掛けるサイモン・ヘイルなど、豪華な布陣が作品を支えています。

サウンドプロダクションはシンプルで、生楽器を活かしたオーガニックなアレンジが特徴です。ピアノとストリングスを主体としたミディアムバラードというフォーマットは、宇多田ヒカルの楽曲の中でも定番と言えるものですが、「花束を君に」では、より明るく、新鮮な曲調が感じられると評されています。サビや後半のコード進行には、ゴスペルやR&Bの影響も垣間見られます。また、楽曲中には意図的に息遣いが挿入されており、より生々しい歌声を表現する工夫が見られます。

母への手紙：言葉にできない想いを紡いで

歌詞の「君」は、宇多田ヒカルの母・藤圭子さんであることが明かされています。亡き母への手紙として書かれたこの歌詞には、深い悲しみと、同時に深い愛情が込められています。「世界中が雨の日も 君の笑顔が僕の太陽だったよ」というフレーズは、特に宇多田ヒカル自身も気に入っている歌詞として知られています。

宇多田ヒカルは、この曲を制作した後、自死遺族の会合に参加。「亡くなった人に手紙を書くことで気持ちが整理できる」という話を聞き、自身の創作活動がまさにそれを表現していたことに気付いたと言います。この体験は、宇多田ヒカルにとって大きな意味を持つものであり、「花束を君に」が世に出た後の肯定的な反応は、彼女にとって大きな勇気と自信を与えてくれたようです。

糸井重里や又吉直樹ら著名人も、この楽曲の持つ力、そして宇多田ヒカルの表現力に感銘を受け、絶賛しています。

リリースと評価：数々の賞を受賞、ロングヒット

「花束を君に」は、2016年4月15日に「真夏の通り雨」と共に配信リリースされました。ミュージックビデオは、切り絵作家・辻恵子によるアニメーションと、竹石渉監督による本人出演バージョンの2種類が制作されました。

この曲は、リリース後、主要配信チャートで上位にランクイン。ダウンロード数は75万ユニットを突破し、トリプル・プラチナ認定を受けるなど、商業的にも大きな成功を収めました。また、日本レコード大賞優秀作品賞、日本ゴールドディスク大賞ベスト5ソング・バイダウンロード、ザテレビジョンドラマアカデミー賞ドラマソング賞第1位など、数々の賞を受賞しています。

音楽関係者や評論家からも高い評価を受け、「花束を君に」は、宇多田ヒカルの音楽的才能と、彼女の深い人間性を示す象徴的な楽曲として、音楽史に刻まれる作品となりました。

楽曲情報

作詞・作曲：宇多田ヒカル
タイアップ：NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』主題歌
* 収録アルバム：『Fantôme』

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