真夏の通り雨

宇多田ヒカル「真夏の通り雨」徹底解説

「真夏の通り雨」は、宇多田ヒカルが2016年4月15日にリリースした5作目の配信限定シングルです。「花束を君に」と同時に配信され、日本テレビ系報道番組「NEWS ZERO」のテーマ曲として使用されました。

制作背景

2010年より「人間活動」と称して音楽活動を休止していた宇多田ヒカルは、2013年に母・藤圭子を亡くします。その悲しみから音楽活動が困難になった時期を経て、2015年の第一子出産を機に再び音楽制作への意欲を取り戻し、アルバム『Fantome』の制作に着手しました。

「真夏の通り雨」は、アルバム制作の中で最初に書き上げられた楽曲であり、亡き母への強い思いが込められています。宇多田ヒカル自身、母親の死によってプライベートな事情が公になったことで、より率直な感情を表現するようになったと語っています。

制作、録音

本作では、初めてパソコンで歌詞を制作しました。歌詞は難航したものの、書くこと自体がセラピーになったと語っています。歌入れはロンドンで行われましたが、妊娠後期だったため断念。その後、東京の文化村スタジオで、玉田豊夢（ドラム）、山口寛雄（ベース）、河野圭（ピアノ）といった日本のミュージシャンを中心にレコーディングされました。ミキシングはスティーヴ・フィッツモーリス、レコーディング・エンジニアは松井敦史が担当しました。

ドラムの玉田豊夢は、バスドラムのみでリズムを刻むという宇多田ヒカルの提案に驚きつつも、その完成されたイメージに脱帽したと語っています。

音楽性

「真夏の通り雨」は、ピアノとストリングスを基調としたバラードです。長調と短調の響きを曖昧にするコード進行や、低めに設定されたキーが特徴的で、従来の宇多田ヒカルの楽曲に通じる要素も含まれています。

楽曲は、A（語り風）、B（展開）、C（サビ）、D（リフレイン）という4つのメロディーで構成されています。特にサビのメロディは、日本の都節音階で作られており、祭り囃子のような響きを持っています。リズム面では、ハイハットやスネアを使用せず、バスドラムのみで鼓動のようなビートを刻むという斬新なアプローチが採用されています。

歌詞

アルバム『Fantome』全体のテーマとして、「日本語で歌うこと」を重視しました。歌詞には、「すごく辛い昔の恋愛を思い出している中年の女性。悲恋を思い返してる、救えなかった人を置いてきてしまって罪悪感を感じている女性」というイメージが込められています。歌詞の一節である〈 降り止まぬ 真夏の通り雨 〉には、「その瞬間死んじゃったら私としては降り止まなかった雨になるわけで。次の瞬間があるという前提が無いってことです。」という想いが込められています。

評価

「真夏の通り雨」は、小田和正や桑田佳祐、音楽評論家の渋谷陽一など、多くのミュージシャンや批評家から高い評価を受けています。特に渋谷陽一は、「日本ポップミュージック史上に残る名曲」と絶賛し、宇多田ヒカルに手紙を書いたほどでした。

チャート成績

Billboard Japanのダウンロード部門で初登場2位、総合チャートでは最高位5位を獲得しました。年間チャートでも20位にランクインし、日本レコード協会の有料配信認定でプラチナ認定を受けています。

ミュージックビデオ

柘植泰人が監督を務めたミュージックビデオは、日本の原風景を美しい映像で捉えています。宇多田ヒカル本人は出演していませんが、「断片的なイメージの中に、観る人それぞれの記憶が想起されるような映像」を目指して制作されました。

映像には、「町」「海」「森」の3つの映像群がランダムに映し出され、それぞれが少女の成長や、生と死の巡回といったテーマを象徴的に表現しています。

受賞と披露

MTV Video Music Awards JapanでBEST VIDEO OF THE YEARとBEST FEMALE VIDEO【JAPAN】を受賞しました。授賞式には欠席したものの、コメントを寄せ、ミュージックビデオについて「私たち日本人の心の原風景に、涙してしまいました。」と語りました。

2016年には「NEWS ZERO」で、2018年には国内ツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」で披露されました。

「真夏の通り雨」は、宇多田ヒカルの深い感情と、日本の美しい風景が融合した、心に響く名曲です。

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