花筐/HANAGATAMI

『花筐/HANAGATAMI』

『花筐/HANAGATAMI』（はながたみ）は、2017年に公開された日本映画で、大林宣彦が監督を務めました。この作品は、1936年に檀一雄が発表した短編小説『花筐』を原作としており、映画が公開された際の映倫区分はPG12とされています。大林監督は、この映画を1977年の『HOUSE ハウス』よりも前に書き上げた脚本を基に作り上げました。本作は、前作『この空の花』や『野のなななのか』に続く戦争三部作の締めくくりとなる重要な作品であり、物語は1941年、太平洋戦争の勃発を控えた佐賀県唐津市を舞台に展開します。

物語の背景

物語は、戦争が迫る中での青春を描いた群像劇です。主なキャラクターは、17歳の榊山俊彦（さかきやまとしひこ）が中心となり、アムステルダムの家を離れ、唐津に住む叔母・江馬恵子のもとへ身を寄せて始まります。俊彦の仲間には、無邪気で美しい鵜飼（うかい）、虚無僧のような吉良（きら）、そしてお調子者の阿蘇（あそ）などが登場します。また、俊彦の従妹である肺病を患った美那（えまみな）が物語のヒロインとして存在感を示します。

彼らは友情や恋愛の中で互いに影響を与え合いながら、個々の人生を自由に生きようと奮闘しますが、次第に戦争の影が迫ってくることになります。この青春の瞬間は、彼らの望みや希望が戦争によって削がれていく儚さを伝えています。大林監督は、自身の独自の視点と圧倒的な映像力を駆使し、この時代の若者たちが直面した厳しい現実を描き出していきます。

原作の背景

原作となった『花筐』は、檀一雄が若き日の24歳で執筆したもので、その書き方は当時の日本文学界に大きな衝撃を与えました。檀は、友人である太宰治とともに、師匠であった佐藤春夫の家を訪れ、作品の装丁を依頼しました。三島由紀夫がこの小説を読んで小説家を志したという話も残されています。この作品が多くの若者に与えた衝撃は大きく、若き大林宣彦もその影響を受けていました。

大林は長年この原作の映画化を夢見ており、故郷である佐賀県唐津市を舞台に設定して作品を作り上げました。余命を宣告された状況下での制作は、大林にとって大きな意味を持つものであり、戦争の影響を受けた世代の言葉を、後の世代に伝えることを目的としました。

制作の背景

『花筐/HANAGATAMI』の制作には、多くの人々の協力がありました。特に唐津市では「唐津シネマの会」が設立され、映画や文化を通じて地域の活力を生み出す活動が行われてきました。この会は、約20年間映画館が存在しない状況下で、地域を活性化しようとする試みの一環で立ち上げられました。大林監督との交流を深め、「花筐」を映画化するプロジェクトが立ち上がりました。

資金調達については、唐津市が協力し、ふるさと納税や一般からの寄付を募ることで、約1億円の制作費が集まりました。このように地域全体で映画制作が支えられていったのです。

映画の評価と受賞歴

『花筐/HANAGATAMI』は、その独特の視点と深い人間ドラマにより、複数の映画賞にノミネートされ、受賞を果たしました。特に、第72回毎日映画コンクールでは日本映画大賞を受賞し、第91回キネマ旬報ベスト・テンでも2位に選ばれるなど、高い評価を受けています。

この作品は、ただの歴史的背景だけでなく、若者の心の問題や愛、友情を描き出すことで、観客の深い共感を呼び起こしました。作品の深みは、見る者に多くのことを考えさせるものでもあり、時代を超えて感動をもたらす映画となっています。

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