花輪の聖母子 (ブリューゲル、ルーヴル美術館)

「花輪の聖母子」は、1616年から1617年にかけて制作された油彩画であり、17世紀フランドル・バロック美術を代表する作品です。この絵画は、花の描写に卓越したヤン・ブリューゲル（父）と、人物画に優れたピーテル・パウル・ルーベンスという、二人の巨匠の共同制作によって生み出されました。

制作後、この作品はヤンの庇護者であったミラノ大司教フェデリコ・ボッロメーオに贈られ、大司教の書簡には二人の共同制作に対する賞賛が記されています。その後、アンブロジアーナ図書館に所蔵されていましたが、フランス革命中の1796年にフランス軍に略奪され、現在はパリのルーヴル美術館に収蔵されています。

フランドルでは、16世紀初頭から人物画家と、風景や静物、動物を専門とする画家が共同で絵画を制作するスタイルが確立されました。特に16世紀末から17世紀にかけて、この共同制作は非常に盛んになります。ルーベンスとヤンもその例外ではなく、ルーベンスがイタリアに滞在する以前の1598年から1600年にも共同制作を行っていました。そして、イタリアからフランドルに戻った後、再びヤンとの共同制作を再開しました。現在、二人の共同制作による作品は30点以上が確認されています。

これらの作品の多くは、ヤンが主導的な役割を果たしており、ルーベンスはヤンが描いた植物や風景の中に人物を描き加えたり、花輪の中に聖母子を描いたりしました。ヤン・ブリューゲルは、その繊細で柔らかい作風から「ビロードのブリューゲル」と称され、また植物の描写に長けていたことから「花のブリューゲル」とも呼ばれました。本作でもその卓越した描写力が遺憾なく発揮されています。

絵画に描かれた花輪は、単なる装飾ではなく、作品の重要な構成要素です。花々の色彩は慎重に調整され、聖母マリアの頭上を飾る花輪を拡大したかのように描かれています。また、花の種類と配置は象徴的な意味を持ち、例えば、聖母の頭の近くに描かれたユリの花は、聖母の純潔を象徴しています。花輪と人物との間に象徴的な関係を構築している点がこの絵画の大きな特徴と言えるでしょう。

興味深いことに、1617年にヤンとルーベンスが共同制作した「五感の寓意（連作）」の中の1点である「視覚の寓意」の右側には、本作とほぼ同じ構図の「花輪の聖母子」が描かれています。この事実からも、この作品が当時いかに評価され、影響力を持っていたかが伺えます。

「花輪の聖母子」は、フランドル美術における共同制作の傑作であると同時に、ヤン・ブリューゲルの花を描く卓越した技術と、ルーベンスの人物描写の才能が融合した、非常に美しい作品です。この絵画を通して、17世紀フランドルの美術の豊かな世界を垣間見ることができるでしょう。

参考文献
ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
『ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア』、Bunkamuraザ・ミュージアム、毎日新聞社、TBS、2013年刊行

外部リンク
* ルーヴル美術館公式サイト、ヤン・ブリューゲル、ピーテル・パウル・ルーベンス『花輪の聖母子』 （フランス語）

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