芹川博通

芹川博通（せりかわひろみち）氏は、日本の倫理学および宗教学の分野で顕著な業績を残した学者です。1939年（昭和14年）に大分県別府市に生まれ、長年にわたり淑徳短期大学で教鞭を執り、退職後には名誉教授の称号を得ています。氏の研究は、宗教と社会、経済倫理、そして仏教思想といった幅広い領域に及び、現代社会が直面する様々な問題に対する深い洞察を提供しました。

経歴と学術活動

芹川氏は大正大学大学院の修士課程を修了し、学術研究の道を歩み始めました。その後、淑徳短期大学の教授として教育に携わる傍ら、研究活動を精力的に展開しました。1995年には、氏の主要な研究成果の一つである「近世近江商人にみられる宗教的経済倫理の研究」によって、大正大学から博士（文学）の学位を取得しています。この論文は、日本の近世における特定の商人集団の経済活動を支えた精神的基盤を宗教学的・倫理学的に分析したもので、氏の研究関心の核心を示すものです。

学界においても活発に活動し、比較思想学会の会長や日本宗教学会の理事といった要職を歴任しました。これらの活動を通じて、国内のみならず国際的な視野から宗教や倫理に関する議論を深め、学術交流の促進にも貢献しました。2010年に淑徳短期大学を定年退任した後も、名誉教授としてその知識と経験を社会に還元し続けました。

研究テーマと主な業績

芹川氏の研究は多岐にわたりますが、特に宗教と経済倫理の関係性は一貫したテーマとなっています。マックス・ウェーバーの宗教社会学を出発点とし、『救済と再生マックス・ウェーバー宗教社会学入門』のような著作を通じて、宗教が社会構造や経済活動に与える影響を理論的に探求しました。また、『宗教的経済倫理の研究』や『経済の倫理宗教にみる比較文化論』では、比較文化的な視点から、様々な宗教や思想体系における経済倫理のあり方を考察しています。

日本の近代化における仏教思想も氏の重要な研究対象でした。『近代化の仏教思想』や、後述する著作集にも収められている関連論文で、近代日本社会の変容の中で仏教が果たした役割や、その思想がいかに展開していったのかを詳細に分析しています。さらに、仏教思想の視点から現代社会の諸問題、例えば都市化による宗教の変化、『現代人と宗教世界脳死移植・環境問題・多元主義等を考える』で論じられた脳死移植や環境問題、多元主義、そして福祉や教育、国家といった広範なテーマにも取り組みました。

特定の人物研究も行っており、福祉に尽力した矢吹慶輝や仏教学者の渡辺海旭といった人物の評伝を著しています。これらの著作を通じて、近代日本の社会や学問の発展に寄与した先人たちの思想と行動を掘り起こし、その現代的意義を問い直しています。

著作集とその意義

芹川氏の長年にわたる広範な研究成果は、「芹川博通著作集」全8巻として集大成されています（北樹出版より刊行）。この著作集は、

第1巻『宗教と社会マックス・ウェーバー論』
第2巻『宗教の経済倫理比較文化論』
第3・4巻『仏教とキリスト教比較思想論』
第5巻『現代宗教論衰退論と不滅論』
第6巻『近現代仏教思想の研究伝統と創造』
第7巻『仏教と福祉共済主義と共生主義』
* 第8巻『国家・教育・環境と仏教叡智と指針』

という構成になっており、彼の研究領域の広さと深さを示しています。宗教社会学から比較思想、現代社会問題まで、氏の学術的な軌跡と多様な研究関心を知る上で極めて重要な資料となっています。

また、多くの共同研究や編著にも携わっており、後進の研究者や他の分野の専門家との協力を通じて、学術の発展に貢献しました。晩年には『「ともにいきる」思想から「いかされている」思想へ宗教断想三十話』といった著作も出版し、自身の思想や人生観を哲学的に綴っています。芹川博通氏は、学術的な探求心と現代社会への鋭い眼差しを持ち合わせ、宗教学と倫理学の分野に多大な貢献を残した研究者です。

もう一度検索