若杉山辰砂採掘遺跡

若杉山辰砂採掘遺跡

若杉山辰砂採掘遺跡（わかすぎやましんしゃさいくついせき）は、徳島県阿南市水井町に位置する歴史的な遺跡で、弥生時代後期から古墳時代前期にかけての辰砂の採掘が行われていたことが示されています。この遺跡は、2019年10月16日に国の史跡として指定され、また2022年には出土品が国の重要文化財に認定されました。

概要

この遺跡は、徳島県南部を流れる那賀川の支流若杉谷川の西側の山腹に広がっており、探査によって辰砂が採掘されていた場所が特定されています。地面には石灰岩やチャートが多く露出し、それらの岩盤には辰砂結晶を含む石英脈が見受けられます。辰砂の採掘は、これらの石英脈をターゲットにした岩盤をていねいに打ち割る方式で行われていました。

調査の結果、採掘場所は主に露天掘りと横穴状の掘削が行われたとされています。広範囲にわたるズリ場が確認され、辰砂の採取と共に発生した廃材が広がっている様子がわかります。さらに、岩盤を打ち割るだけでなく、石杵や石臼を使用して辰砂を加工するプロセスも見つかっています。この石杵の一つは、香川県東部で採れるヒン岩でつくられたものであり、採掘道具として持ち込まれたと考えられています。出土した土器には、在地で作られたものに加え、他地域、特に鮎喰川や香東川のものが含まれており、これらの地域の人々も辰砂採掘に関与していたと推測されます。

最近の調査では、弥生時代後期に火を使った採掘の国内最古の痕跡が発見されました。具体的には、チャート岩盤の中に約40センチの幅と約50センチの深さのくぼみが見つかり、壁面には黒いすすが残っていたことから、人為的な採掘が行われたことが確認されました。これにより、辰砂採掘において火入れ法が古くから利用されていたことが示され、国内では江戸時代初期の延沢銀山が最古とされていましたが、若杉山での使用が1400年以上も古かったことが明らかになりました。

火入れ法は、古代ローマや漢代の中国での技術であり、この技術が日本に導入されていたことは、当時の採掘技術が世界基準であったことを示しています。徳島文理大学の大久保徹也教授は、「弥生時代の日本において、世界基準の採掘技術が導入されることは非常に重要だ」と述べており、中国からの技術が九州や瀬戸内海を経由して四国にまで広がっていた可能性があると考えています。

弥生時代から古墳時代にかけては、辰砂が銅鐸や土器、さらには埋葬施設に塗布され、葬送儀礼に用いられるなど、その重要性は計り知れません。若杉山辰砂採掘遺跡は、そのような歴史的背景を持つ貴重な場所であり、後世に伝えられるべき価値のある遺跡です。また、その考古学的な意義は、辰砂の採掘が地域だけでなく、広域な文化的関係を示す証ともなっています。

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