銅鐸

弥生時代の神秘：銅鐸のすべて

日本の弥生時代（紀元前2世紀～2世紀）を代表する青銅器、銅鐸。その独特の釣鐘状の形状と精緻な文様は、現代の私たちを魅了してやみません。本稿では、考古学的な知見を元に、銅鐸の形状、文様、出土状況、用途、歴史、そしてかつて論じられていた「銅鐸文化圏」について、分かりやすく解説します。

銅鐸の名称と起源

「銅鐸」という名称は、中国古代の柄付き青銅器楽器「鐸」に由来します。鐸は打器で叩いて音を出すのに対し、吊るして使用するものは「鐘」と呼ばれていました。弥生時代の銅鐸は、鐸や鐘に似た形状をしており、日本では古くから「銅鐸」と呼ばれてきましたが、実際には吊るして使用されていたと考えられています。

『続日本紀』（8世紀編纂）には、和[[銅]]6年（713年）に大和国宇陀郡で発見された銅鐸の献上記録が初めて登場します。その後、『扶桑略記』（12世紀）、『石山寺縁起』（14世紀）などの文献にも「宝鐸」という名称で登場しており、古くから人々の注目を集めていたことがわかります。

銅鐸の出土状況と分布

現在までに全国で約500個の銅鐸が出土しています。かつては近畿地方を中心とした「銅鐸文化圏」という概念がありましたが、北部九州の吉野ヶ里遺跡などから多数の銅鐸や鋳型が出土したことで、この概念は否定されています。特に、吉野ヶ里遺跡出土の銅鐸と鋳型が、島根県出雲地方の銅鐸と一致したことから、北部九州で作られた銅鐸が出雲地方に伝播したと考えられるようになりました。

銅鐸の出土分布は、兵庫県、島根県、徳島県、滋賀県、和歌山県などに集中していますが、全国各地で発見されており、その分布から、当時の社会構造や交流の様子を推測する手がかりとなります。

銅鐸の形状と文様

銅鐸の大きさは、12cmから1mを超えるものまで様々です。1世紀頃には高さ60cmに達し、2世紀には1mを超える大型のものが作られるようになりました。最大のものは滋賀県野洲市出土の銅鐸で、高さ144cm、重量45kgに達します。

近畿地方産の銅鐸には、必ず文様が施されています。最も多いのは「袈裟襷文」で、縦と横の文様帯を交差させたものです。初期の銅鐸は流水文が用いられ、その後、袈裟襷文、さらに複雑な文様へと変化していきます。また、紐を通すための鈕（ちゅう）の形状も、初期の菱形から円形、扁平形、突線形へと変遷しています。

約13%の銅鐸には、文様だけでなく、弥生時代の生活や儀式の様子を描いた絵画も施されており、これらは「絵画銅鐸」と呼ばれ、貴重な情報源となっています。例えば、伝香川県出土の銅鐸の絵画は、「農耕賛歌」と解釈されることもあります。

2015年に兵庫県で発見された松帆銅鐸は、入れ子状になった4個の銅鐸すべてに「舌（ぜつ）」と呼ばれる、音を出すための青銅製の部品が残っており、銅鐸が吊り下げて使用されていたことを示す重要な発見となりました。また、その材料分析から、朝鮮半島産のものと同じ材料で作られていたことが判明しています。

銅鐸の歴史と用途

日本の銅鐸は、中国大陸を起源とする鈴が朝鮮半島を経て伝来し、独自に発展したと考えられています。1世紀末頃には大型化が加速し、近畿式と三遠式の2種類に大別されます。2世紀には盛んに作られましたが、3世紀になると突然作られなくなります。

銅鐸の用途については、未だ解明されていない部分が多く残されています。初期の小型の銅鐸は、鈕に紐を通して吊り下げ、内部に「舌」を垂らして音を鳴らしていたと考えられています。しかし、1世紀末頃以降は大型化し、鈕の形状も変化するなど、用途が変化した可能性が示唆されています。「聞く銅鐸」から「見る銅鐸」への変化、つまり、音を出すためのものから、祭祀儀礼などで飾るものへと変化したと考えられています。

銅鐸の埋納状況と諸説

銅鐸は、丘陵の麓や頂上付近の比較的浅い穴に埋納されていることが多く、住居跡や墓からはほとんど出土しません。そのため、村落共同体全体の所有物であったと考えられています。埋納時期は紀元前後と2世紀に集中しています。

埋納理由については、いくつかの説があります。

豊作祈願の御神体説
祭儀の変化による廃棄説
災害時への奉納説
地霊鎮めの風習説
任命書の代替説
外敵襲来による隠匿説
* 社会変動による廃棄説

これらの説はそれぞれに根拠があり、一概にどれが正しいとは言えません。遺跡ごとに埋納の事情が異なっていた可能性もあるため、今後も研究が必要です。

銅鐸文化圏と銅矛文化圏

かつては、銅鐸は近畿地方、銅矛は北九州地方に集中して出土することから、「銅鐸文化圏」と「銅矛文化圏」という概念がありました。しかし、近年は、両方の遺物が各地で出土するようになったため、これらの概念は現在では使われていません。

結論

銅鐸は、弥生時代の高度な青銅器技術と、当時の社会・文化・信仰を反映した貴重な遺物です。その謎は未だ解明されていない部分が多く残されていますが、今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになっていくことが期待されます。

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