英普同盟 (1756年-1762年)

英普同盟：七年戦争を彩った不安定な協力関係

1756年から1762年にかけて存在した英普同盟は、七年戦争における重要な軍事同盟でした。グレートブリテン王国とプロイセン王国という、一見すると結びつきの薄い二国が、複雑な国際情勢の中で利害の一致を見出し、協力関係を築いた歴史的事件です。本稿では、この同盟の成立背景から崩壊に至るまでの過程、そしてその後の両国関係に焦点を当てて解説します。

複雑なヨーロッパ外交：同盟成立の背景

18世紀中葉のヨーロッパは、列強間の勢力争いが激化する混沌とした時代でした。イギリスは長らくオーストリアと同盟関係にありましたが、1731年以降の関係は必ずしも良好とは言えず、対照的にプロイセンはフランスと同盟を結んでいました。オーストリア継承戦争におけるオーストリアの敗北と、シュレージエンの喪失は、ヨーロッパの勢力均衡を大きく揺るがしました。マリア・テレジア率いるオーストリアはイギリスの支援を期待しましたが、イギリスの支援が得られないことに失望し、フランスとの同盟を強化しました。

この状況変化を踏まえ、イギリスは戦略転換を迫られました。大陸における同盟国を失ったイギリスは、フリードリヒ2世率いるプロイセンと同盟を結ぶことで、フランスに対抗し、ヨーロッパの勢力均衡を維持しようとしたのです。この同盟締結には、イギリス国内においても、ウィリアム・ピットら熱心なプロイセン支持者の存在が大きな影響を与えました。

七年戦争：同盟の試練と成果

イギリスとプロイセンの同盟は、七年戦争の勃発によって試されることになります。フリードリヒ2世の先制攻撃は、オーストリア、フランス、ロシア、スウェーデンなど、複数の強国による反プロイセン同盟の形成を招きました。プロイセン軍は精鋭でしたが、資金不足に悩まされ、イギリスからの支援が不可欠な状況となりました。

1758年、イギリスは英普協定を締結し、プロイセンに多額の援助金を供与しました。同時に、プロイセンは単独講和をしないことを約束しました。イギリス軍は、プロイセン軍と協力してフランス軍と戦い、プロイセン西部を防衛することで、フリードリヒ2世を東部戦線におけるオーストリアとの戦闘に集中させることができました。ミンデンの戦いなど幾つかの勝利を収める一方で、1759年にはプロイセンは崩壊寸前に陥るなど、戦況は常に緊迫していました。

しかし、1759年以降、戦況はイギリスとプロイセンにとって有利に転じます。イギリスは「奇跡の年」と呼ばれるほどの大勝利を収め、フランスをヨーロッパ、北アメリカ、アジアで撃破しました。さらに、1762年にはロシアが参戦から離脱し、イギリスはスペインにも勝利しました。

崩壊への道：同盟の終焉とその後

しかし、1762年、イギリスは財政難を理由にプロイセンへの補助金を削減し、ドイツ駐留軍も撤退させました。両国はそれぞれ単独講和に追い込まれ、英普同盟は事実上崩壊しました。パリ条約によってイギリスは多くの植民地を獲得しましたが、プロイセンはシュレージエンの保持に留まり、領土拡大の野望は叶いませんでした。

同盟崩壊後、両国関係は悪化の一途を辿ります。アメリカ独立戦争では、イギリスのプロイセンへの同盟要請は拒否され、プロイセンはロシアと同盟を結びました。しかし、1780年代に入ると両国関係は再び改善し、1787年にはバタヴィア革命で協調、翌年にはネーデルラント連邦共和国とともに三国同盟を結び、フランス革命後は対仏大同盟に参加するなど、協力関係を回復させました。

結論

英普同盟は、七年戦争という激動の時代において、イギリスとプロイセンのそれぞれの利害が複雑に絡み合い、一時的に生まれた不安定な協力関係でした。同盟の成立と崩壊のプロセス、そしてその後の両国関係の変遷は、18世紀ヨーロッパの国際政治における複雑さを如実に示す事例と言えます。この同盟の研究は、単なる軍事同盟史にとどまらず、大国間の外交戦略や勢力均衡のダイナミズムを理解する上で重要な示唆を与えてくれます。

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