英雄夢語り (ヒーローズ)

アルバム概要

デヴィッド・ボウイによる11作目のスタジオ・アルバム『英雄夢語り（ヒーローズ）』（原題: "Heroes"）は、1977年10月14日にRCAレコードよりリリースされました。発表当時のLPレコードでは「英雄夢語り (ヒーローズ)」という邦題が用いられていましたが、CD化以降は単に「ヒーローズ」として広く知られています。

ベルリン時代と『ロウ』との関係性

本作は、前年にリリースされた『ロウ』とほぼ同時期に制作されており、多くの参加ミュージシャンを共有しています。両作品はともにドイツのベルリンで録音され、インストゥルメンタル楽曲の比率が高い構成など、音楽的な類似点が多いことから「姉妹作」と位置づけられています。1979年のアルバム『ロジャー (間借人)』を含めて「ベルリン三部作」と呼ばれることもありますが、特に『ロウ』と本作は音楽的な作風が非常に近いとされています。ただし、『ロウ』と比較すると、本作はよりドラマチックでロック色の強いサウンドが特徴です。

音楽性とテーマ

アルバムの中心を成すのは、ボウイのキャリアを代表する名曲として知られる表題曲「ヒーローズ」です。この楽曲の着想源は、ベルリンの壁の傍で密かに逢瀬を重ねる恋人たちの姿（伝えられるところでは、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティとその時の愛人であったとされています）にインスパイアされたものです。歌詞に描かれる「ヒーローズ」という言葉は、英雄崇拝や英雄志向といった意味合いではなく、むしろ閉塞的な状況下における束の間の夢や希望を儚く表現しています。

音楽的には、当時のボウイが傾倒していたジャーマン・ロックの影響が随所に見られます。表題曲「ヒーローズ」のタイトルは、ドイツのロックバンド、ノイ!の楽曲「Hero」から示唆を得ており、アルバム収録曲「V-2 Schneider」は、ドイツのテクノポップグループ、クラフトワークのメンバーであるフローリアン・シュナイダーにちなんで名付けられています。また、「ヒーローズ」はボウイ自身によるドイツ語版やフランス語版が存在するほか、世界中の多様なアーティストによってカバーされており、その普遍的な魅力を示しています。

ジャケットと評価

アルバム・ジャケットも象徴的です。写真は日本の写真家、鋤田正義が手掛けました。ボウイの独特なポーズは、オーストリア表現主義の画家、エゴン・シーレの自画像を模倣したと言われています。この印象的なアートワークは、後の2013年に発表されたボウイのアルバム『ザ・ネクスト・デイ』のジャケットでそのまま引用され、話題を呼びました。

批評的な評価も非常に高く、英音楽誌NMEは、表題曲「ヒーローズ」を「NMEが選ぶデヴィッド・ボウイの究極の名曲1〜40位」の第1位に選出するなど、本作は後世に多大な影響を与えた傑作として広く認識されています。

再発売と参加ミュージシャン

本作はリリース以降、何度か再発売されています。1991年にはEMI（米国ではRYKO）よりCD化された際に、未発表テイク2曲がボーナストラックとして追加収録されました。しかし、1999年にEMIからリリースされた24ビット・デジタル・リマスタリング盤には、ボーナストラックは収録されていません。

本作の制作に参加した主要なミュージシャンは以下の通りです。

デヴィッド・ボウイ - ボーカル、キーボード、ギター、サクソフォーン、琴
カルロス・アロマー - ギター
ジョージ・マーレイ - ベース
デニス・デイヴィス - パーカッション
ブライアン・イーノ - シンセサイザー、キーボード
ロバート・フリップ - ギター
アントニア・マース - バッキング・ボーカル
トニー・ヴィスコンティ - バッキング・ボーカル

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