苺とチョコレート

キューバ革命後の社会と、友情：映画『苺とチョコレート』

1994年公開の映画『苺とチョコレート』（原題：Fresa y Chocolate）は、キューバ革命後の社会を背景に、思惑の異なる二人の男性の友情と葛藤を描いた感動作です。キューバ、メキシコ、スペインの合作によって制作されたこの作品は、社会主義国における個人の自由、性的指向、そして友情の複雑さを繊細に描き出しています。

物語の中心は、熱心な共産主義者の大学生ダビドと、自由奔放なゲイの芸術家ディエゴの出会いから始まります。ハバナのとあるカフェで偶然出会った二人。チョコレートアイスとイチゴアイスを手にした出会いは、二人の異なる人生観を象徴的に示唆しています。芸術家であるディエゴは、ダビドを自身の個展に招待します。しかし、ディエゴのアパートに飾られた作品や、彼の自由主義的なライフスタイルは、共産主義思想に染まったダビドには理解しがたいものでした。

ダビドは、ディエゴを「同性愛者のスパイ」ではないかと疑い、共産党青年同盟の仲間であるミゲルに報告します。ミゲルの指示を受け、ダビドはディエゴを監視するよう命じられますが、次第にディエゴの純粋で温かい人柄、そして芸術への情熱に触れていきます。ディエゴの知性と魅力は、ダビドの心を揺さぶり、二人の間には友情が芽生えていきます。政治的立場の違いを超えた友情は、次第に深まっていきますが、二人の穏やかな日々は長くは続きません。

ディエゴの同性愛が原因で、彼は国を追われることになります。別れを目前にした二人。初めて交わす固い抱擁は、互いへの信頼と友情の深さを物語っています。そして、二人が最初に会ったカフェで、彼らは再びチョコレートアイスとイチゴアイスを交換し、微笑みながら別れを告げます。このシーンは、二人の友情の儚さと、それでも残る温かい記憶を象徴的に表しています。

映画『苺とチョコレート』は、単なる恋愛映画や政治映画ではありません。異なるイデオロギー、性的指向、そして社会情勢の中で育まれた友情の物語であり、人間の普遍的な感情や価値観を問いかける作品です。監督であるトマス・グティエレス・アレアとファン・カルロス・タビオの巧みな演出、そしてセネル・パスの原作・脚本は、この映画に深みを与えています。

この映画は、第44回ベルリン国際映画祭で審査員特別賞とテディ賞を受賞、さらに金熊賞にもノミネートされるなど、高い評価を得ています。ゴヤ賞、サンダンス映画祭でも受賞・ノミネートされ、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた実績は、その高い芸術性と完成度の証です。

キャストには、ディエゴ役のホルヘ・ペルゴリア、ダビド役のウラジミール・クルスなど、キューバを代表する俳優たちが名を連ねています。彼らの繊細な演技は、登場人物たちの複雑な感情を余すことなく表現し、観客の心を深く揺さぶります。

『苺とチョコレート』は、キューバ革命後の社会状況と、個人の葛藤、そして友情の力強さを描いた、忘れがたい名作です。異なる文化や価値観を持つ人々が、互いに理解し、友情を育むことの大切さを改めて考えさせてくれる、感動的な映画体験を提供してくれるでしょう。映画をご覧になった後、原作小説『苺とチョコレート』（セネル・パス著、野谷文昭訳、集英社）を読むことで、より深く映画の世界観を理解することができるでしょう。

もう一度検索