茂市久美子

茂市久美子（もいち くみこ）

1951年4月29日、岩手県新里村（現在の宮古市）に生まれた日本の童話作家です。実践女子大学の英文科で学び、大学在学中から童話作家の那須辰造氏に師事しました。

故郷である岩手県の豊かな自然や、心温まる日常を題材にした作品を多く生み出しています。特に、1992年に発表された『おちばおちばとんでいけ』は、岩泉線を舞台にした叙情的な物語として高い評価を受け、第3回ひろすけ童話賞を受賞しました。この受賞は、作家としての地位を確固たるものとしました。

茂市氏は、岩手県が文化振興のために推進する「銀河系いわて大使」の一員としても活動しています。これは、郷土への深い愛情と、その魅力を広く伝えたいという思いの表れと言えるでしょう。

また、個人的な関心事としては、山歩きを趣味としており、ネパールやヨーロッパ各地の山岳地帯を数多く訪れています。この経験は、その後の創作活動にも大きな影響を与えており、紀行文やエッセーといった形で結晶しています。夫は山岳写真家の藤田弘基氏であり、共に旅をし、山の世界を見つめてきた経験は、お互いの作品世界にも影響を与え合っていると考えられます。

児童書においては、多くのシリーズ作品を手掛けています。土田義晴氏がイラストを担当した「コックの正太さんシリーズ」は、食を通じて広がる温かい交流を描いています。講談社から出版されている「つるばら村シリーズ」は、柿田ゆかり氏や中村悦子氏の絵と共に、のどかな村の人々の営みや小さな出来事を丁寧に紡ぎ出し、幼い読者に親しまれています。また、黒井健氏が絵を描いた「またたびトラベルシリーズ」や、とよたかずひこ氏によるイラストの「ドラゴンシリーズ」、中村悦子氏のイラストによる「あなぐまモンタンシリーズ」など、様々な絵本作家とのコラボレーションを通じて、多様なキャラクターと世界観を展開しています。

シリーズ作品以外にも、『風の生まれるかなたに』、『まほうのハカリ』、『ゆめをにるなべ』など、単独の物語作品も数多く発表しています。それぞれの作品において、独特のファンタジー要素や、身近な事柄に潜む不思議、登場人物たちの心の動きを繊細に描き出しています。また、紙芝居作品もあり、子どもたちに直接語りかけるような表現にも挑戦しています。

紀行文・エッセーとしては、『氷河と青いケシの国 : ネパール紀行』、『ヒマラヤの民話を訪ねて』、『ロマンチック・インディア』、『私のヒマラヤ紀行』といった、自身の旅の経験に基づいた作品があります。これらの作品からは、世界の多様な文化や自然、そこに暮らす人々の息吹を感じ取ることができます。写真家の夫・藤田弘基氏との共著や、その写真集に文章を寄せた作品も複数存在します。近年では、愛犬との暮らしを綴ったエッセー『今日よりは明日はきっと良くなると』も出版されており、身近なテーマにも温かい視線を向けていることがうかがえます。

茂市久美子の作品は、故郷岩手への思い、旅への情熱、そして登場人物たちへの優しい眼差しによって彩られています。読みやすく、心に響くその物語は、子どもから大人まで幅広い世代に愛されています。文学作品集への寄稿や、教科書にも掲載されるなど、その作品は多くの人々に届けられています。

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