茎突舌骨筋

茎突舌骨筋（けいとつぜっこつきん）

「茎突舌骨筋（けいとつぜっこつきん）」は、学名を「Musculus stylohyoideus」といい、ヒトの頸部、特に喉の周辺に位置する細長い骨格筋です。この筋肉は、嚥下（えんげ：食物や液体を飲み込む動作）や発声といった重要な機能に関わる舌骨（ぜっこつ）という骨の運動に関与する、「舌骨上筋群（ぜっこつじょうきんぐん）」と呼ばれる筋肉グループの一つに分類されます。

舌骨上筋群は、茎突舌骨筋のほか、顎二腹筋（がくにふくきん）、顎舌骨筋（がくぜっこつきん）、オトガイ舌骨筋（おとがいぜっこつきん）の四つの筋肉から構成されています。これらの筋肉は、下顎骨（下あごの骨）や側頭骨（こめかみのあたりの骨）といった頭蓋骨の一部から始まり、舌骨に付着しています。そして、連携して舌骨を上前方へ引き上げたり、固定したりすることで、嚥下や発声に必要な舌骨の複雑な動きを可能にしています。

茎突舌骨筋の起始（きし）、すなわち筋肉が始まる場所は、側頭骨の下面から鳥のくちばしのように細長く突き出た骨性の突起である「茎状突起（けいじょうとっき）」です。この茎状突起は、耳の下あたりに位置し、茎突舌骨筋を含むいくつかの筋肉や靱帯が付着する解剖学的なランドマークとして知られています。茎突舌骨筋は、この茎状突起の基部から起こり、下方に向かって走行を開始します。

筋肉は下方へ進むにつれて、頸部の他の筋肉と交差または隣接しながら走行します。特に、この筋肉は「顎二腹筋」という別の筋肉と密接な関係を持ちます。顎二腹筋は、名前の通り、前腹（ぜんふく）と後腹（こうふく）という二つの筋肉の「腹」を持ち、その間は「中間腱（ちゅうかんけん）」と呼ばれる腱で連結されています。茎突舌骨筋は、顎二腹筋の後腹（こうふく）の外側を沿うようにして走行します。

そして、茎突舌骨筋の停止（ていし）、つまり筋肉が付着する場所は「舌骨」です。舌骨は、下顎骨と喉頭（こうとう）の間に位置するU字型の骨で、他の骨格とは直接的な関節を持たず、周囲の筋肉や靱帯によって吊り下げられた状態で存在します。茎突舌骨筋は、顎二腹筋の中間腱が舌骨に付着する部位の近く、具体的には顎二腹筋の中間腱の前後の舌骨に付着します。多くの場合、茎突舌骨筋の最終的な腱は二つに分かれ、顎二腹筋の中間腱を文字通り挟み込むような構造で舌骨に付着するという特徴的な走行を示します。

茎突舌骨筋の主な作用（さよう）は、その付着先である舌骨を上方へと引き上げることです。加えて、この筋肉の収縮は、舌骨を単に上に持ち上げるだけでなく、やや後方に牽引する動きも伴います。この舌骨の後上方への動きは、嚥下運動において重要な役割を果たします。食物や液体を飲み込む際、舌骨上筋群全体が収縮して舌骨を挙上・前進させ、それに伴って喉頭も引き上げられ、気道が閉鎖されて誤嚥を防ぎます。茎突舌骨筋による舌骨の後方への牽引は、この一連の動きのバランスを保ち、食塊が適切に咽頭から食道へと誘導されるのを助ける一端を担っています。また、舌骨の位置は発声時における声道の形状にも影響を与えるため、間接的に発声機能にも寄与していると考えられます。

このように、茎突舌骨筋は、側頭骨の茎状突起から舌骨へと走行し、顎二腹筋と協調しながら舌骨を後上方に動かすことで、嚥下や発声といった、私たちが日常生活で無意識に行っている重要な生理機能の円滑な遂行を支えている、比較的小さながらも重要な筋肉の一つです。

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