茗渓会館

筑波大学およびその前身校の卒業生・修了生によって組織される同窓会、社団法人茗渓会がかつて運営していた施設が「茗渓会館」です。東京都文京区大塚の地に位置するこの会館は、長年にわたり同窓生の交流や活動の拠点として親しまれてきました。しかし、建物の老朽化に伴う改築を経て、その管理・運営体制は大きく変化しました。現在、この施設は株式会社シーズンによって「嘉ノ雅 茗渓館」と称され、結婚式場、レストラン、カフェなど、広く一般に開かれた商業施設として運営されています。

旧茗渓会館は、その建築様式において特筆すべき存在でした。荘厳かつ優美な佇まいは、落ち着いた気品を湛えたモダン建築の代表例とされ、都内においては学士会館と並び称されるほど、地元の人々からも愛される建築物でした。社団法人日本建築学会が作成した歴史的建築物のリストにも登録されており、その価値が認められていました。建物の内部には美しいステンドグラスが嵌め込まれ、外壁には温かみのある茶色のスクラッチタイルが用いられていました。玄関ポーチには石が張られ、柔らかで迎え入れるような雰囲気を醸し出していました。さらに、外観の一部にはアーチ状の小窓が規則的に並び、全体のシルエットは周辺環境と調和し、街路樹の緑に映える「街路の建築」として、絵になるような風景を生み出していました。

しかし、時代の流れとともに旧茗渓会館は老朽化が進み、惜しまれながらもその姿を消すこととなりました。そして、新たな施設として「茗渓会館」と「茗渓ビル」という二つの建物に生まれ変わりました。この改築事業は、茗渓会の財政状況に大きな影響を及ぼしました。建物の維持・管理にかかる費用が増大し、ピーク時には同窓会費収入の約4割がこれらの経費に充てられるという、厳しい状況に陥ったのです。

このような財政的な圧迫を解消するため、茗渓会は建物の管理運営を外部の専門企業に委託する決断を下しました。2015年8月30日より、株式会社シーズンがその任を引き継ぎ、「嘉ノ雅 茗渓館」として新たな運営が開始されました。これにより、茗渓会館は同窓生のための施設という性格から、結婚披露宴をはじめとする様々なイベントに対応できる多目的施設へと転換しました。

運営形態の変更は、同窓会活動にも具体的な影響をもたらしました。従来、同窓会関連の会合で利用する際には一定の優先権が認められていましたが、新たな運営体制下では、他の商業利用と同様に会場利用の優先権がなくなり、施設の使用料も課されることになったのです。この変化は、同窓生にとって会館を利用する際のハードルを高める結果となりました。特に、かつて茗渓会と組織統合していた旧図書館情報大学の同窓会「橘会」は、こうした運営方針の変化を背景に、2015年度末をもって茗渓会の支部から退会するという判断を下しました。これは、同窓会館としての機能が変化したことが、会員組織間の関係性にも影響を与えうる事例と言えます。茗渓会館の歴史は、単なる建物の変遷だけでなく、それを取り巻く組織のあり方や、会員の活動にまで深く関わる物語を内包しているのです。

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