茨木杉風

茨木杉風：近江の風土を墨絵で彩った画家

茨木杉風（いばらぎさんぷう、1898年～1976年）は、近代日本における水墨画壇に重要な足跡を残した画家である。滋賀県近江八幡市の商家に生まれた彼は、幼い頃から絵画への強い関心を抱き、大林千万樹に師事した後、近藤浩一路という巨匠の下で研鑽を積んだ。

近藤浩一路への師事と同時に、茨木は太平洋洋画会研究所にも通い、洋画の手法も学んだ。この幅広い学習経験は、彼独自の画風を確立する上で大きな役割を果たしたと考えられる。1920年、院展に『八木節』を出品し、見事に入選。その後、1926年には日本美術院院友の栄誉に浴した。翌年には師である近藤と共にヨーロッパへ渡航し、現地でスケッチを重ねたという記録が残っている。

しかし、1937年、茨木は日本美術院の文展への参加に反発。志を同じくする院友10名と共に、新しい美術団体『新興美術院』を設立した。これは、既存の美術界の枠にとらわれず、より自由な表現空間を求めた茨木の強い意志の表れと言えるだろう。彼はその後、生涯にわたって新興美術院の中心人物として活躍し、1958年には日本学士院のアカデミア賞を受賞するなど、その功績は高く評価されている。

茨木杉風の作品には、故郷近江の自然、特に琵琶湖の風景が頻繁に登場する。彼の深い郷土愛と、自然への深い造詣が感じられる。代表作の一つとして挙げられるのが、『近江八景』（六曲四双屏風絵）である。1943年の新興美術院展に出品されたこの作品は、近江の美しい景観を繊細かつ力強く描き出し、高い評価を得ている。

中央画壇での名声や地位を特に追い求めることなく、茨木は故郷近江の地で創作活動を続けた。これは、彼自身の芸術観、そして生活観を表していると言えるだろう。彼は、大都市の喧騒から離れ、故郷の自然に抱かれながら、独自の芸術世界を築き上げた稀有な画家であった。

彼の作品は、伝統的な水墨画の技法を基盤としながらも、洋画の手法や独自の感性を融合させた、独特の表現様式を特徴としている。その作風は、静謐でありながら力強く、近江の風景の奥深い魅力を余すことなく描き出している。

茨木杉風は、1976年に逝去。彼の死後も、新興美術院は彼の遺志を継ぎ、日本の美術界に貢献し続けている。彼の作品は、現在も各地の美術館や個人のコレクターによって大切に保管され、鑑賞されている。そして、近江の自然を愛し、独自の芸術世界を追求した画家の生涯は、後世の多くの画家たちに影響を与え続けるだろう。

関連事項

滋賀県立美術館：茨木杉風展（1985年）
『茨木杉風作品集』（新興美術院、1976年）
* 『白日』7(2)(60) 1933年3月 P5「ベスビオスの朝 茨木杉風」（白日荘）

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