茶筅髷

茶筅髷とは：時代を彩った二つのスタイル

茶筅髷は、その名の通り毛先を茶筅のように仕立てた独特な髪型です。主に男性の間で流行した安土桃山時代と、江戸時代の武家女性の間で行われたものという、二つの異なるスタイルが存在します。それぞれの時代背景と意味合いを紐解きましょう。

茶筅髷（男性）：若者の反骨精神を象徴するスタイル

安土桃山時代、特に戦国時代末期から江戸時代初期にかけて、若い男性の間で流行したのがこの茶筅髷です。月代を剃らず、またはごく狭く剃るのみで、後頭部の髪を紐などで巻き上げ、毛先を散らすのが特徴でした。このスタイルは、当時の若者たちの間で流行した「傾き者」と呼ばれる、既存の価値観にとらわれない反骨精神の象徴とも言えるものでした。

時代が下るにつれて、月代を広く取るスタイルも現れましたが、当初は前髪を残し、月代を剃らない、もしくはごく狭く剃るのが一般的でした。派手好きな若殿などは、巻き立てを大きく結い上げることもあったようです。

織田信長の若い頃の奇抜な姿も、茶筅髷と深く結びついています。豹柄の半袴や猿回しのような縄の帯に加え、萌黄色の平打ち紐で高く巻き上げた茶筅髷は、彼の破天荒なキャラクターを際立たせる要素の一つでした。

「傾き者」たちは、奇抜な衣装や振る舞いを好み、その一環として茶筅髷のような派手な髪型を取り入れました。しかし、江戸幕府が開かれ、社会が安定期を迎えると、「傾き者」とその奇抜なスタイルは徐々に廃れていきました。

茶筅髷（女性）：貞節の誓いを表す髪型

江戸時代、主に大名や武家の未亡人の間で結われたのが、女性の茶筅髷です。これは、「貞女二夫に見えず」という当時の貞操観念を象徴するものでした。夫を亡くした女性が、再婚しない決意を示すために、髷の先を切り落としたのです。

この髪型は、新しい夫のために髪を結うことがないという、未亡人の強い決意を表していました。町人階級の女性には見られなかったことから、武家社会特有の風習であったと考えられます。

まとめ：茶筅髷が物語る時代精神

茶筅髷は、男性においては若者の反骨精神や自由な自己表現、女性においては貞節という、それぞれの時代の価値観を反映した髪型でした。同じ「茶筅髷」という名前を持ちながらも、その背景にある意味合いは大きく異なっていたのです。髪型一つにも、当時の社会や文化が色濃く反映されていることがわかります。

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