茶色の小瓶

"茶色の小瓶"（Little Brown Jug）は、1869年にアメリカ合衆国の作曲家ジョセフ・ウィナー（Joseph Winner、1837-1918）によって発表された楽曲です。彼は自身のミドルネームであるイーストバーン（Eastburn）名義でこの作品を世に送り出しました。

この曲はもともと、宴の場で歌われる陽気な歌として誕生しました。その題名が示す通り、酒瓶をテーマにした内容でした。しかし、アメリカにおける禁酒法時代には、皮肉にも酒を扱った他の歌と同様に、改めてこの曲への注目が集まり、人気が再燃しました。

音楽史において転機となったのは、1939年にグレン・ミラー楽団がこの曲に施した画期的なアレンジです。彼らはこの親しみやすいメロディーを、洗練された躍動的なスウィング・ジャズのインストゥルメンタル（歌のない演奏）に生まれ変わらせました。このアレンジ版は空前の大ヒットを記録し、その後「茶色の小瓶」はアメリカのビッグバンド時代を象徴する一曲となりました。この成功により、今日に至るまでジャズの定番曲（スタンダード・ナンバー）として世界的に広く認識されています。

他のメディアでの展開としては、1948年にフェイマス・スタジオが製作したアニメーションシリーズ『スクリーン・ソングズ』の一つとして採用されたことが挙げられます。このアニメーションでは、『茶色の小瓶』のメロディーに乗せて、ビーバーが作ったアップルサイダー（リンゴ酒）が誤って川に流れ込み、それを飲んだ森の動物たちが次々と陽気に酔っ払ってしまう様子がコミカルに描かれました。

海を越えた日本では、この曲は全く異なる形で親しまれています。特に子供向けの「童謡」として広く知られており、小学校の音楽の教科書にも掲載される定番となっています。日本で用いられている歌詞は複数存在しますが、いずれも原曲のテーマであった酒の内容は含まれておらず、子供たちが歌いやすいように全く異なる題材や情景に改変されています。

現代においても、この曲は様々な場面で使用されています。例えば、日本の大手ビールメーカーであるキリンビールのテレビCM、「新一番搾り」シリーズにおいて、グレン・ミラーによるスウィングアレンジ版を基に、新たに歌詞をつけたものが使用され、再び多くの人々の耳に届いています。

また、歴史的な演奏としては、1946年にジョー・ビビアーノとジョン・セリーがアコーディオンとリズムセクションで演奏した音源などが残されており、過去の録音をオンラインアーカイブで聴くことも可能です。このように、「茶色の小瓶」は、その誕生から現在に至るまで、時代や地域、ジャンルを超えて形を変えながら歌い継がれ、演奏され続けている稀有な楽曲と言えるでしょう。

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