草上の昼食 (モネの絵画)

クロード・モネ『草上の昼食』：印象派への転換点

クロード・モネの代表作のひとつに数えられる『草上の昼食』は、1865年から1866年にかけて制作されました。エドゥアール・マネの同名絵画から着想を得て描かれたこの作品は、当初は縦4メートル強、横6メートル強という巨大なスケールで構想されました。しかし、完成した大作はサロンに出品されることなく、モネ自身の手によって分割されるという運命を辿ります。現在、その中央部分と左部分の2点が、パリのオルセー美術館に収蔵されています。

絵画は、パリから南東へ約60キロメートル離れたシャイイ＝アン＝ビエールを舞台に、若い紳士淑女たちが森の中で昼食を楽しむ様子を描いています。白いテーブルクロスの上には、ローストチキンなど豪華な料理が並び、ワインも用意されています。陽光が降り注ぐ開放的な空間、そして自然と人物の調和は、モネの初期の才能を存分に感じさせるものです。

この作品には、制作過程における興味深いエピソードが残されています。モネは、完成作に至るまで数多くの習作を描いており、その中のひとつ『草上の昼食（習作）』は、ロシアのプーシキン美術館に所蔵されています。2018年には、「プーシキン美術館展――旅するフランス風景画」として日本で初めて公開され、大きな話題を呼びました。

『草上の昼食（習作）』は、完成作の構図を理解する上で重要な手がかりとなります。習作と完成作を比較することで、モネが構図や人物像をどのように修正していったのか、また、当時の流行を取り入れた衣装の変化なども読み取ることができます。例えば、完成作の左端には、太った男性の姿が描かれていますが、これは習作には存在しません。この男性はギュスターヴ・クールベがモデルであると言われています。一方、左部分に描かれている男性はフレデリック・バジール、そして中央の女性はカミーユであると推測されていますが、後者については異論もあります。完成作では、カミーユの白いドレスに赤い装飾が加えられている点も注目に値します。

『草上の昼食』は、単なる風景画にとどまらず、モネの芸術における重要な転換点を示す作品として評価されています。東京大学教授の三浦篤氏は、本作を「印象派の出発点であり、歴史的にも、またモネの個人史においても転換点となる重要な作品」と高く評価しています。モネはこの作品を通して、光と影、そして色彩の微妙な変化を捉える独自の技法を確立し、後の印象派へと繋がる重要な一歩を踏み出しました。その大胆な構図、そして自然描写は、後のモネ作品にも大きな影響を与え、印象派絵画史において重要な位置を占める作品と言えます。巨大なスケールから分割されたという経緯も含め、この作品はモネの芸術家としての情熱と挑戦を物語る、まさに記念碑的作品と言えるでしょう。

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