荒井洋明

荒井 洋明

荒井 洋明（あらい ひろあき）は、1983年8月3日生まれの日本の音楽家です。彼はミキシング・エンジニア、ソングライター、そして編曲家として多岐にわたる活動を展開しており、特にインターネット上では「シグナルP」や「Dios」といった名義でも広く知られています。現在では、これらの名を合わせた「Dios/シグナルP」という名義を中心に活動しています。

彼のキャリアは、東京スクールオブミュージック専門学校に在学中からプロのミュージシャンとしてスタートしました。卒業後はフリーランスの作曲家、編曲家、ミキシング・エンジニアとして活動の場を広げ、様々なアーティストへの楽曲提供や制作に携わっています。その初期の代表的な仕事の一つに、歌手の玉置成実氏のセカンドシングル「Realize」（テレビアニメ『機動戦士ガンダムSEED』オープニングテーマ）の編曲（大谷靖夫氏と共同）があります。

荒井氏の音楽家としての活動に大きな変化をもたらしたのは、2007年末にクリプトン・フューチャー・メディア社の歌声合成ソフトウェア「鏡音リン・レン」を導入したことでした。当初は自身の楽曲制作における仮歌のために購入したツールでしたが、次第に鏡音リン・レンを用いたオリジナル楽曲を制作するようになり、動画共有サイト「ニコニコ動画」にて発表を開始します。彼の生み出す楽曲とその質の高いVOCALOID調声（ちょうせい）は瞬く間に人気を集め、「伝説のリン廃」「鏡音リン・レンマスター」といった愛称で、VOCALOID音楽シーンにおける主要なプロデューサーの一人として認知されるようになりました。

「シグナルP」という名前は、ニコニコ動画への初投稿作品であり、鏡音リン・レンを使用した楽曲「リンリンシグナル」に由来しています。末尾の「P」は、ファンが敬意を込めて付けた「プロデューサー」の略称です。また、彼は自身の音楽的な探求心を表現するために、従来のシグナルP名義とは異なる作風の楽曲を発表する際に「Dios」という名義も使用するようになります。これらの名義を使い分けることで、表現の幅を広げていきました。

2011年には、そのVOCALOID楽曲の人気の高まりを受けて、大手レコード会社EXIT TUNESより自身初のメジャーアルバムとなる『EXIT TUNES PRESENTS THE BEST OF Dios/シグナルP』をリリースし、VOCALOIDプロデューサーとしてメジャーデビューを果たしました。このアルバムには、「エンクロージャー」「サンドリヨン」「リンリンシグナル」といった代表曲が収録されており、多くのファンに迎えられました。

メジャーデビュー以降も、彼の活動は精力的に続いています。クリプトン・フューチャー・メディアが運営する配信レーベル「KARENT」からは、『SIGNALOID BOX』、『DigiStyling』、『ReRections』、『イエローダイヤモンド』、『Junk in the Heart』、『Bal Masque』といった多数の配信限定アルバムをリリースしており、様々なVOCALOIDや歌声合成ソフトウェアを用いた楽曲を発表しています。また、2023年には自身のレーベル「twinkledisc」から『ダブルディスタン』をリリースするなど、独立した活動も行っています。

自身の名義での活動に加え、他のアーティストへの楽曲提供や様々な企画への参加も積極的に行っています。例えば、鏡音リン・レンの音声担当声優である下田麻美氏のカバーアルバム『Prism』への楽曲提供や作曲・編曲、多数のVOCALOIDコンピレーションアルバムへの楽曲参加（「サンドリヨン」は特に様々なアルバムに収録されています）、ゲーム『初音ミク -Project DIVA-』シリーズへの楽曲提供やゲーム内でのマニピュレート担当など、その活動範囲は多岐にわたります。さらに、桃井はるこ氏や小室哲哉氏、TRFといった著名なアーティストのリミックスやカバーを手がけるほか、男性アイドルグループへの楽曲提供なども行っており、プロの音楽家としての確かな技術と幅広いジャンルへの対応力を示しています。

荒井洋明、すなわちDios/シグナルPは、専門学校在学中からのキャリアを持つ経験豊富なプロの音楽家でありながら、黎明期のVOCALOID音楽シーンにおいてパイオニアの一人として登場し、その発展に大きく貢献した人物です。多様な名義を使い分けながら、自身のルーツであるプロとしての音楽制作、そしてVOCALOIDを用いた革新的な音楽創作の両面から、精力的な活動を続けています。

もう一度検索