荒川鉱山

秋田県大仙市に栄えた荒川鉱山：240年の歴史と近代化、そして閉山後の姿

秋田県大仙市協和荒川地区（旧仙北郡荒川村）に位置する荒川鉱山は、1700年（元禄13年）に川村庄右衛門によって発見された銅山です。発見から閉山まで、実に240年以上にわたって操業を続け、日本の近代化に貢献しました。

1738年（元文3年）からは久保田藩の直轄鉱山となり本格的な開発が始まりました。その後、明治時代に入ると、1873年（明治6年）に秋田県へ、翌年には明治政府から瀬川安五郎へと所有権が移転。1876年（明治9年）には嗽沢抗で大鉱脈が発見され、荒川鉱山の黄金時代が幕を開けます。

明治29年（1896年）からは三菱合資会社（後の三菱鉱業）が鉱業権を取得。同社による近代的な設備投資によって、製錬所、中央選鉱所、発電所などが建設され、鉱山は大きく発展しました。

鉱山の近代化は、周辺地域にも大きな変化をもたらしました。鉱山町として整備が進み、役場、郵便局、駐在所、浴場、病院、さらには劇場「共楽館」や大盛小学校といった施設が建設され、人口は最盛期には約4000人、周辺地域を含めると8000人に達するほどに発展しました。大盛小学校は仙北郡内でも大曲小学校に次ぐ規模を誇り、約800人の児童が学んでいました。また、秋田市よりも約3年早く電灯が導入されるなど、当時の最先端技術が導入され、荒川鉱山は県内有数の近代都市へと変貌を遂げたのです。坑道の総延長は53kmにも及ぶ規模を誇りました。共楽館では、演劇や映画の上映に加え、宝塚歌劇団や歌舞伎の公演も行われ、鉱山町の人々にとって貴重な文化交流の場となりました。

しかし、昭和10年（1935年）頃からは資源の枯渇が深刻化し、昭和15年（1940年）に閉山。鉱山は三菱鉱業尾去沢鉱業所荒川支所へと縮小され、最盛期の賑わいも終焉を迎えました。閉山後は、一部の鉱山労働者は近隣の宮田又鉱山へと転出したと言われています。

閉山後、荒川鉱山の跡地は様々な活用が模索されました。平成5年（1993年）には、百目石抗の一部を利用した観光施設「マインロード荒川」が仙北郡協和町（現・大仙市）によって整備されました。オートキャンプ場や自然公園なども整備され、新たな観光資源として期待されていましたが、平成19年（2007年）に坑道の崩壊により休業。その後、観光用坑道の再開は不可能と判断され、展示されていた資料の一部は大仙市協和自然資源等活用型交流促進施設「大盛館」に移設・展示されることになりました。坑道入り口付近の自然公園の一部は、現在はサーキット場「新協和カートランド」として再整備されています。

荒川鉱山の歴史は、作家松田解子の代表作『おりん口伝』にも描かれています。日露戦争前後の荒川鉱山を舞台に、過酷な労働環境の中で生きる女性・りんの成長と階級意識の目覚めを描いたこの小説は、1966年に雑誌『文化評論』に連載され、1968年には第8回田村俊子賞、1969年には第1回多喜二・百合子賞を受賞しました。その後、『おりん母子伝』（1974年）、『桃割れのタイピスト』（1976年）と続く「おりん」三部作として、松田解子の代表作となりました。

荒川鉱山は、その歴史と発展、そして閉山後の姿を通して、日本の近代化の一端を垣間見ることができる貴重な場所です。現在でも、その歴史を伝える資料や跡地の一部は、大仙市で保存・活用され、後世に継承されています。

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