荒野に生きる

荒野に生きる（Man in the Wilderness）

『荒野に生きる』は、1971年に製作・公開されたアメリカ合衆国の西部劇映画である。原題は『Man in the Wilderness』。監督はリチャード・C・サラフィアンが務め、主演には俳優リチャード・ハリスが起用された。

本作の物語は、19世紀初頭のアメリカ西部で実在したとされる毛皮猟師、ヒュー・グラスの過酷な体験談に大まかに基づいている。史実によれば、ヒュー・グラスはグリズリーに襲われ瀕死の重傷を負った後、同行者によって置き去りにされるが、驚異的な生命力で過酷な自然の中を生き抜き、生還を果たしたとされる。この伝説的なサバイバルが、映画の根幹をなすテーマとなっている。

映画の舞台は1820年代の広大な未開の地。主人公ザック・バス（リチャード・ハリス）は、ミズーリ川を遡上する探検隊の一員である。彼が巨大なグリズリーに襲われ、致命的な傷を負うという悲劇に見舞われることから物語は始まる。探検隊のリーダーであるヘンリー（ジョン・ヒューストン）は、ザックの回復の見込みがないと判断し、やむなく数人の隊員に彼を看病させた後に本隊と合流するよう指示する。しかし、食料が尽き、先を急ぐ状況下で、隊員たちはまだ息のあるザックを置き去りにしてしまう。この裏切り行為が、ザックの心に深い憎悪と復讐心を植え付けることになる。

置き去りにされたザックは、凍てつく寒さと飢え、そして重傷という絶望的な状況の中で、決して諦めない強い意志を示す。彼は這うようにして荒野を進み、時には野生動物を仕留め、時には自然の恵みに頼りながら、奇跡的な回復を遂げていく。このサバイバル描写は、自然の厳しさと人間の生命力の凄まじさを鮮烈に描き出しており、本作の大きな見どころとなっている。リチャード・ハリスは、言葉にならない苦痛や内面の葛藤を、体当たりの演技で見事に表現し、観る者に主人公の過酷な道のりを追体験させる。

ザックの原動力となるのは、自らを死地に追いやった者たちへの激しい復讐心である。彼は生還を果たすためだけでなく、自分を裏切った者たちに裁きを下すために、一歩ずつ文明社会へと向かう。その過程で、彼は自身の過去や人生についても深く内省することになる。単なる復讐劇にとどまらず、人間の精神的な強さや、極限状況における倫理観を問う側面も持ち合わせている。

本作は、過酷な自然環境でのロケーション撮影により、荒野の美しさと同時にその非情さをリアルに映し出している。台詞を多く用いず、映像とリチャード・ハリスの演技によって主人公の状況と心情を語る演出は、観る者に強い印象を残す。ジョン・ヒューストンをはじめとする共演陣も、物語に深みを与えている。

このヒュー・グラスの物語は、後に再び映画化されている。2015年に公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の映画『レヴェナント: 蘇えりし者』もまた、同じ史実を題材としているが、本作『荒野に生きる』とは異なる原作に基づいており、リメイクではない。両作を見比べることで、同じ史実から生まれた異なる解釈や表現の違いを楽しむことができる。

日本においては、1970年代後半にテレビの洋画劇場などで放映され、多くの映画ファンに知られることとなった。特に、1979年3月4日に「日曜洋画劇場」で初回放送された際には、リチャード・ハリス演じるザック・バス役に声優の内海賢二があてられ、その迫真の演技が日本語吹替版としても高く評価された。

『荒野に生きる』は、サバイバル劇、西部劇、そして人間の精神的なドラマとして、公開から時を経てもなお、その力強いメッセージとリチャード・ハリスの印象的な演技で観る者に深い感動を与える作品であると言える。

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