荒野の洗礼者聖ヨハネ (ボス)

作品概要

『荒野の洗礼者聖ヨハネ』（または『瞑想する洗礼者聖ヨハネ』）は、初期ネーデルラント絵画の巨匠ヒエロニムス・ボスが1489年頃に制作した油彩作品です。元々はスヘルトーヘンボスのシント・ヤンス聖堂の祭壇画の一部であり、現在はマドリードのラサロ・ガルディアーノ美術館に所蔵されています。

ボスは、聖人を前景に単独で配置し、背景に自然の風景を描くという一連の聖人画を手がけましたが、本作もその一つです。この作品は、洗礼者聖ヨハネが荒野で瞑想する姿を描いており、その内面的な苦悩や精神的な深みが表現されています。

祭壇画としての役割

本作は、もともとシント・ヤンス聖堂の聖母マリア兄弟会の礼拝堂の祭壇画の一部でした。この祭壇画は、本作の他に『パトモス島の聖ヨハネ』と、失われたアドリアン・ファン・ウェセルによる木彫群で構成されていたとされています。祭壇画は二重扉構造で、本作と『パトモス島の聖ヨハネ』は、祭壇画上部の小さな扉絵であったと考えられています。ただし、支持体が異なるため、確定的ではありません。

もし両作品が対作品であるならば、『荒野の洗礼者聖ヨハネ』は左翼パネルであり、縦が13センチほど切断されたことになります。この場合、本作は「瞑想的な生」を、『パトモス島の聖ヨハネ』は「活動的な生」を表すと考えられます。

作品詳細

洗礼者聖ヨハネは、イエス・キリストに洗礼を施した聖人であり、荒野で説教を行ったと伝えられています。本作では、髭を生やした壮年の聖人が赤い長衣を身につけ、奇妙な岩山のある山野を背景に岩に頬杖をついています。これは明らかに瞑想する姿であり、彼の内面的な思索が描かれています。

聖ヨハネは右手を、自身のアトリビュートである仔羊に向けています。これは「見よ、神の仔羊」と、キリストの到来を予告しているかのようです。仔羊は、キリストの象徴として知られています。

聖ヨハネのそばには、茎が長く伸びた毒々しい植物があります。これは悪の象徴であり、悪に囲まれた聖人の孤独を際立たせています。植物の大きな果実は肉欲の象徴であり、それを鳥がついばんでいる様子が描かれています。この果実はもともと、聖人の方を向いていた跪く寄進者が描かれていましたが、ボス自身によって奇怪な植物に変更されたと考えられています。

ハールレムの画家ヘールトヘン・トット・シント・ヤンスの『荒野の洗礼者聖ヨハネ』も、本作と類似した点が見られますが、制作年代が不明確なため、影響関係は断定できません。ヘールトヘンの作品では聖ヨハネは座って瞑想していますが、ボスの作品では、聖ヨハネが仔羊を指し示し、キリストの先触れとしての役割を強調しています。また、肉欲の象徴である果実は、精神的な選択を提示しているとも解釈できます。

参考文献

小池寿子『謎解き ヒエロニムス・ボス』、新潮社、2015年刊行 ISBN 978-4-10-602258-6
岡部紘三『図説 ヒエロニムス・ボス 世紀末の奇想の画家』、河出書房新社、2014年刊行 ISBN 978-4-309-76215-9
ヴァルター・ボージング『ヒエロニムス・ボス 天国と地獄の間で』、TASCHEN、2007年刊行 ISBN 978-4-88783-308-1

外部リンク

ラサロ・ガルディアーノ美術館公式サイト、ヒエロニムス・ボス『荒野の洗礼者聖ヨハネ』 (英語)

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