アトリビュート

西洋美術におけるアトリビュート（attribute）とは、特定の人物や神と結びつけられた持ち物のことで、その人物を識別するための重要な手がかりとなります。日本語では「持物（じもつ・じぶつ）」とも呼ばれます。アトリビュートは、伝説上の人物、歴史上の人物、あるいは神話に登場する神々など、さまざまな存在と関連付けられており、その人物の属性や特徴を視覚的に表現する役割を果たします。

例えば、正義の女神像を例にとると、彼女が手に持つ天秤と剣、そして目隠しが、彼女が正義を司る存在であることを示すアトリビュートです。これらの持ち物を通じて、観る者は女神が何者であるかを認識することができます。

宗教画におけるアトリビュート

特に宗教画、特にイコンなどの分野では、アトリビュートは聖人の生涯、職業、使命などを表現するために重要な役割を果たします。例えば、画面に描かれた女性がオルガンなどの楽器を手にしていれば、それは音楽の守護聖人である聖セシリアである可能性が高いでしょう。また、車輪と共に描かれている女性は、車輪による拷問を受けた聖カタリナであると判断できます。このように、アトリビュートは、特定の聖人を識別する上で、非常に重要な要素となります。

さらに、シュロの葉は、殉教者（致命者）に共通のアトリビュートとして用いられます。シュロの葉は、古代ローマにおいて勝利の象徴であったことから、キリスト教においては、信仰のために命を捧げた殉教者の象徴となりました。ただし、正教会においては、致命者（殉教者）の持つ象徴は、シュロの葉ではなく十字架であるとされます。このように、同じ殉教者でも、宗派や文化によってアトリビュートが異なる場合がある点に注意が必要です。

主なアトリビュートの例

以下は、西洋美術において、人物を特定するために用いられる代表的なアトリビュートの例です。これらのアトリビュートは、公式なものもあれば、非公式なものもあり、表現として広く用いられています。

キリスト教の聖人

聖ペテロ：鍵
聖パウロ：剣、書物
聖母マリア：白いユリ、青いマント
聖ヨハネ：子羊
聖セバスティアヌス：矢
聖アガタ：乳房、はさみ
聖クリストフォロス：幼児キリスト、杖

ギリシア・ローマ神話

ゼウス：雷、鷲
ヘラ：孔雀
ポセイドン：三叉の鉾、イルカ
アポロン：弓矢、竪琴
アテナ：盾、鎧、フクロウ
アフロディーテ：貝殻、鳩
ヘルメス：翼のあるサンダル、杖

これらの例からもわかるように、アトリビュートは、特定の人物や神を視覚的に表現し、その人物の特徴や役割を理解する上で不可欠な要素です。アトリビュートを理解することで、西洋美術の作品をより深く鑑賞することができるでしょう。

参考資料

平松洋『名画の謎を解き明かすアトリビュート・シンボル図鑑』KADOKAWA、2015年。ISBN 978-4-04-601145-9。

関連項目

図像学
三昧耶形
台座
* 神使

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