莫愚

莫愚（ばく ぐ）は、明代に活躍した官僚であり、その生没年は明らかになっていません。彼の本貫は桂林府臨桂県にあります。

生涯

莫愚は、1417年（永楽15年）に郷試に合格し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。その後、工部郎中にまで昇進し、1430年（宣徳5年）には常州府知府として地方行政を担うことになりました。

常州府知府として、莫愚は民衆の生活を深く考慮した行政を行いました。その一つとして、常州府の属県である宜興県からの茶の歳貢の量を減らすよう朝廷に奏請しました。これは、民衆の負担を軽減するためのものでした。

また、莫愚の公正かつ人道的な判断を示す有名な逸話があります。常州府の民である陳思保という12歳の少年が、漁業を営む家族の中で暮らしていました。ある時、彼の父親や兄が強盗を働き、その際に陳思保も舟の中にいたため、法吏は彼を従犯として斬刑に処すべきだとしました。しかし、莫愚は「小児は父兄に頼るものであり、その行動を共にしていたとしても、それは同罪とは言えない。もし家族全員が舟で生活しているのであれば、家族全員を連座させるのか」と、少年の無罪を主張しました。この上疏は宣徳帝の心を動かし、陳思保は釈放されることになりました。この事件は、莫愚の民を思う仁愛の心が表れたものとして、高く評価されています。

1441年（正統6年）、莫愚は任期満了を迎えましたが、常州府の民は彼の優れた行政手腕と人柄を慕い、彼の留任を熱心に請願しました。江南諸府巡撫の周忱がこの民の請願を朝廷に報告すると、英宗は莫愚を2階級特進させ、再び常州府知府として赴任させることを命じました。これは、地方官として莫愚がどれほど民に信頼されていたかを物語るエピソードです。

莫愚は、常州府の民にとって、公正かつ慈悲深い地方官として記憶されています。彼の行政は、民衆の生活を第一に考え、冤罪をなくし、民衆の負担を軽減することに重点を置いていたと言えるでしょう。彼の生涯は、明代の官僚のあるべき姿を示すものとして、後世に語り継がれています。

脚注

莫愚の詳しい生没年は不明です。

参考文献

『明史』巻161 列伝第49

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