菊地昌典

菊地昌典：激動の時代を駆け抜けたソ連研究者

菊地昌典（1930年2月17日 - 1997年5月22日）は、日本のソ連研究者であり、東京大学名誉教授の肩書きを持つ人物です。彼の生涯は、社会主義思想の探求と、激動する世界情勢に対する深い考察に彩られていました。

生い立ちと学歴

東京に生まれた菊地は、東京都立第九中学校、宇都宮高等農林学校を経て、1952年に東京大学農学部獣医畜産学科を卒業しました。その後、1955年には同大学院農学研究科農業経済学専攻修士課程を修了。国立国会図書館勤務を経て、1966年に農学博士号を取得しました。

研究者としてのキャリア

東京大学教養学部助教授（国際関係論）として教鞭をとり始めたのは1966年。1980年には同教授に昇進。1990年に定年退官し、東京大学名誉教授となりました。その後は、千葉敬愛短期大学教授、同短大学長を経て、1997年には敬愛大学教授に就任しますが、在任中にその生涯を閉じました。

思想的遍歴と研究活動

菊地昌典は、一貫して社会主義者としての立場を貫きました。当初はスターリニストでしたが、後にトロツキー主義へと思想を転換。民衆史観に基づく歴史小説論も展開しました。ソ連研究者でありながら、毛沢東や文化大革命を無条件に礼賛したことで知られ、そのことが後に多くの批判を浴びる要因となりました。

1987年には、東京大学教養学部社会科学科で東京外国語大学助手の中沢新一を採用する案が持ち上がった際、西部邁らとともに、この案に強硬に反対したというエピソードも残っています。

主要な著作と業績

菊地の著作は多岐にわたりますが、特に重要なものとして以下の書籍が挙げられます。

『ロシア農奴解放の研究』（1964年）
『歴史としてのスターリン時代』（1966年、増補版1973年）
『ロシア革命』（1967年）
『人間変革の論理と実験』（1971年）
『1930年代論――歴史と民衆』（1973年）
『ロシア革命と日本人』（1973年）
『社会主義と人間』（1973年）
『革命と民衆――国家論への試み』（1974年）
『体験的社会主義論』（1976年）
『試練にたつ社会主義』（1976年、第2版1977年）
『現代ソ連論――史的考察と理論分析』（1977年）
『現代社会主義の論理』（1978年）
『歴史小説とは何か』（1979年）
『絶望の選択中ソの和解――大破局必至の世界情勢の読み方』（1982年）
『人類の知的遺産（67）トロツキー』（1982年）
『歴史と想像力』（1988年）

これらの著作は、彼の社会主義思想への深い洞察と、歴史に対する独特な視点を反映しており、多くの研究者や学生に影響を与えました。

共同研究と編著

菊地は、単著だけでなく、共同研究や編著も多く手掛けました。その一部を以下に示します。

（宍戸寛・矢吹晋・袴田茂樹）『中ソ対立――その基盤・歴史・理論』（1976年）
『社会主義 講座マルクス主義（10）』（1969年）
『ロシア革命』、『ロシア革命以後』（1971年）
『ソビエト史研究入門』（1976年）
『ロシア革命論――歴史の復権』（1977年）
『社会主義はどこへいくか』（1985年）
『社会主義と現代世界』（1989年）
（石堂清倫）『革命思想の名著――12選』（1972年）
（石堂清倫・江川卓）『ソヴエト反体制――地下秘密出版のコピー（1）』（1976年）
（山本満）『北京・新疆紀行――革命と民衆を訪ねて』（1978年）

これらの共同研究や編著は、彼の幅広い関心と、他の研究者との交流を通じて、より多角的な視点から社会主義やソ連の問題を捉えようとした姿勢を示しています。

翻訳

また、菊地は翻訳家としても活動し、以下のような書籍を翻訳しています。

レオニード・ウラヂーミロフ『素顔のロシア人』（1969年）
アイザック・ドイッチャー『大粛清・スターリン神話』（1985年）

これらの翻訳を通じて、海外の社会主義思想やソ連に関する知識を日本に紹介することに貢献しました。

まとめ

菊地昌典は、社会主義思想を深く追求し、ソ連研究者として多大な業績を残しました。彼の思想は複雑であり、スターリン主義からトロツキー主義へと変遷を遂げましたが、その根底には常に民衆への強い関心がありました。彼の著作は、現代社会を考える上で、重要な視点を提供しています。

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