菊田守

菊田 守（きくた まもる）

日本の詩人、菊田守は、昭和10年（1935年）7月14日、当時の東京府東京市中野区鷺宮に生を受けました。少年期から青春期にかけて、激動の時代を過ごし、後の詩作の根底に影響を与えたと考えられます。明治大学を卒業後、詩作の道に進み、その生涯を言葉に捧げました。

詩人としての活動は、詩誌への参加から本格的に始まりました。彼は詩誌『花』の同人として研鑽を積み、詩壇における交流を深めていきます。その後、神楽坂を拠点とする詩誌『詩と思想』を主宰し、長年にわたり多くの詩人たちの表現の場を提供するとともに、現代詩の発展に寄与しました。主宰として、詩に対する深い洞察と情熱をもって、多くの詩人の育成や詩の普及に努めたその功績は大きいと言えます。

詩壇における要職も歴任しています。平成3年（1991年）には現代詩人会の理事長に就任し、組織運営の中心を担いました。さらに平成13年（2001年）には同会の会長を務め、日本の現代詩の振興と詩人の地位向上に力を尽くしました。これらの役職を通じて、詩という芸術形式の重要性を社会に訴えかけ、詩を取り巻く環境の整備に貢献しました。

菊田守の詩作は多岐にわたりますが、特に身近な自然、昆虫や鳥獣といった生物、あるいは日常のささやかな出来事から主題を得た作品が多いことで知られています。初期の詩集には『昼の砂』(1960年)、『凧』(1963年)、『カフカの犬』(1970年)などがあり、その後もコンスタントに作品を発表し続けました。『カラス』(1981年)、『モズの嘴』(1984年)、『妙正寺川』(1990年)といった具体的な対象をタイトルにした詩集がある一方で、『かなかな』(1993年)のような感覚的な響きを持つ詩集も刊行しています。この詩集『かなかな』によって、彼は第1回丸山薫賞を受賞し、その詩業が高く評価されました。他にも『小動物詩集』(1993年)、『白鷺』(1999年)、『タンポポの思想』(2004年)、『一本のつゆくさ』(2007年)、『雀』(2014年)、『日本昆虫詩集』(2015年)、『蛙』(2017年)など、晩年まで衰えることのない創作意欲をもって、自然や生命への温かい眼差しを詩に結晶させました。

詩集以外にも、評論や随筆を手がけました。詩人・村野四郎について論じた『村野四郎ノート』(1975年)や『亡羊の人 村野四郎ノート』(1978年)、詩人・杉克彦に焦点を当てた『流れる水は透視する 杉克彦ノート』(1982年)などは、同時代の詩人への深い洞察を示すものです。『カラスの止まり木 エッセイ集』(1988年)や『一色少ない虹 随筆集』(1995年)、『詩のこころ』(2017年)といった散文作品からは、詩作の背景にある思想や、日々の暮らしの中で詩を見出す姿勢を垣間見ることができます。共編著としては、『鎮魂詩(レクイエム)四〇四人集』(2010年)などがあり、多くの詩人との関わりの中で活動を展開しました。

晩年も精力的に創作活動を続けましたが、平成31年（令和元年、2019年）6月3日、肺炎のため、東京都板橋区の病院にて永眠しました。享年83歳。多年にわたり日本の現代詩に貢献し、独自の詩境を切り開いた詩人の死は、詩壇にとって大きな損失となりました。菊田守が残した豊かな詩の世界は、これからも多くの読者によって読み継がれていくことでしょう。

もう一度検索