華やかな野獣

『華やかな野獣』

『華やかな野獣』は、横溝正史が手掛けた中編の推理小説で、金田一耕助シリーズの一つとして著名です。この作品は、昭和31年12月に『面白倶楽部』に掲載され、その後2020年には原作を基にしたテレビドラマも放映されました。

あらすじ

物語の舞台は、本牧の「吉田御殿」という異名で知られる「臨海荘」です。この施設は会員制の享楽的なパーティが開催される場所で、主催者の高杉奈々子が父の遺産として相続した見事な二階建ての洋館です。奈々子の父である啓策は戦後の混乱期に名を馳せた人物で、彼が作った臨海荘は、各部屋が犯罪には触れず、性愛を楽しむためのルールを設けた場所でもありました。

パーティーでは、参加者がホール内で新しい相手を見つけては個室に移動し、密会を重ねていました。しかし、参加者の中に不審なボーイが紛れ込んでおり、実はそれが探偵の金田一耕助でした。奈々子から、毎月のパーティーで麻薬取引が行われている疑いがあると依頼されて、彼は潜入捜査を開始していました。

しかし、参加者たちは突然、ホールに姿を見せない奈々子を不審に思い始めます。そして、部屋を訪れた京子と太田が、奈々子の死体を発見してしまいます。彼女は絞殺され、悲惨な状況に置かれていました。部屋には果物を食べていた跡と、ダイイングメッセージとも取れる血文字「トラ」が残されていました。

調査を行う中で、奈々子の異母兄である啓一が、彼女の部屋に忍び込んでいたことが明らかになりました。啓一は奈々子を蘇生させようと試みていたものの、彼の姿もまた怪しいものでした。また、部屋には不審な男がいた形跡があり、事件のより深い闇が覗いています。

複雑に絡み合う関係

金田一は、事件の真相を解明するため多くのヒントを集めていきました。参加者たちは各々の秘密を抱え、状況はますます複雑になっていきます。奈々子は自身以外にも、麻薬取扱いの捜査を進めていた鷲尾にもコンタクトを取っていたことが判明。鷲尾は彼女との密会の後に、行方不明になったことが分かります。これらの事実は、追跡する金田一に新たな手がかりを与えます。

犯人像が徐々に明らかになる中、金田一は「臨海荘」の特異な構造と参加者たちの行動を照らし合わせ、真相に近づこうとします。彼が描く犯人の姿は自身が直接見た証言や物的証拠によって形成され、事件の全貌が解き明かされてゆきます。

結末とその後

最終的に、事件の核心が暴かれ、犯人の正体が明らかになります。犯行動機や、各登場人物の背景が織り成すドラマティックな展開は、読者を最後まで緊張させるものでした。失われた命とともに、罪の重さが背景に深く刻まれることで作品は完結します。

『華やかな野獣』は、ただの推理小説に留まらず、社会の複雑さや人間関係の深淵を描写した作品でもあり、横溝正史の独特な視点が光る作品といえるでしょう。

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