萌の朱雀

萌の朱雀 (1997)

『萌の朱雀』は、河瀨直美監督が手掛けた1997年公開の日本映画です。過疎化が進む架空の村「恋尾」を舞台に、そこに生きる人々の暮らし、感情、そして喪失を、繊細かつ美しい映像で描き出しています。

概要

本作は、WOWOWとバンダイビジュアルが製作した「J・MOVIE・WARS 4」の一作として制作されました。奈良県西吉野村（現在の五條市）でロケーション撮影が行われ、その土地の自然や風景が、物語に深みを与えています。

河瀨監督は、ロケハン中に地元の中学生だった尾野真千子を見出し、彼女を主演に抜擢しました。本作は尾野真千子のデビュー作となり、彼女の自然な演技が、作品にリアリティをもたらしています。

河瀨監督は、本作で第50回カンヌ国際映画祭のカメラ・ドール（新人監督賞）を史上最年少で受賞し、国際的に高い評価を受けました。また、河瀨監督自身による小説版も出版されています。

あらすじ

物語は、過疎化が進む恋尾村で暮らす田原一家を中心に展開します。孝三（國村隼）と泰代（神村泰代）夫婦、娘のみちる（尾野真千子）、孝三の甥の栄介（柴田浩太郎）、そして祖母の幸子（和泉幸子）。彼らは、静かに暮らしていました。

みちるは、幼い頃から兄のように慕ってきた栄介に恋心を抱きます。しかし、栄介は叔母である泰代に密かに思いを寄せていました。一方、孝三は、村の活性化を願って鉄道新線（五新線）のトンネル工事に従事しますが、計画は頓挫し、職を失ってしまいます。

失意の中、孝三は村の人々の姿を8ミリフィルムに収め、やがてこの世を去ります。孝三の死後、幸子は泰代に実家へ帰ることを勧めます。村を出る決意をした泰代からそのことを告げられたみちるは、栄介に自分の気持ちを打ち明け、短い時間を共に過ごします。

それぞれの想いを胸に、泰代とみちるは恋尾村を後にします。栄介と幸子は、二人を見送り、村に残ることを選びました。

スタッフとキャスト

監督・脚本: 河瀨直美
プロデューサー: 仙頭武則、小林広司
撮影: 田村正毅
音楽: 茂野雅道
出演者: 國村隼、尾野真千子、和泉幸子、柴田浩太郎、神村泰代

受賞歴

第50回カンヌ国際映画祭 カメラ・ドール
第26回ロッテルダム国際映画祭 国際批評家連盟賞
第10回シンガポール国際映画祭 主演女優賞 (尾野真千子)
第21回山路ふみ子映画賞 福祉賞
第12回高崎映画祭 若手監督グランプリ (河瀨直美)、最優秀新人女優賞 (尾野真千子)
* 第52回毎日映画コンクール 撮影賞 (田村正毅)

撮影秘話

映画に登場する路線バスの場面は、当時の賀名生停留所周辺で撮影されました。また、トンネルの場面は、五新線の未成線トンネルが使用されています。栄介と泰代が働いていた旅館は、洞川温泉の光緑園西清がロケ地となりました。

テーマ

『萌の朱雀』は、過疎化という社会問題を背景に、人々の心の機微を丁寧に描いた作品です。失われていくものへの郷愁、世代間の感情、そして未来への希望が、美しい映像とともに観る者の心に深く響きます。河瀨直美監督ならではの視点と、尾野真千子をはじめとする俳優陣の自然な演技が、この作品を特別なものにしています。

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