落日 (小説)

湊かなえによる長編ミステリー小説『落日』（らくじつ）は、2019年に発表され、第162回直木三十五賞の候補作となりました。深い心理描写と予測不能な展開で読者を引きつけ、2023年にはWOWOWで連続ドラマWとして映像化され、主演を北川景子が務めたことでも大きな話題となりました。

物語の概要とあらすじ

物語の中心となるのは、若くして成功を収めた映画監督の長谷部香です。彼女は次なる作品の題材として、自身の故郷である笹塚町で15年前に起きた凄惨な事件を選び取ります。それは、当時高校生だった立石沙良が、引きこもりだった兄の力輝斗に刺殺され、さらに自宅への放火によって両親も命を落としたという、世間を震撼させた一家惨殺事件でした。香には、この事件、特に被害者の沙良への特別な思いがありました。幼少期、厳しい母親からのお仕置きとしてアパートのベランダに閉め出された際、隣室のベランダに同じく閉め出されていた子供と、仕切り越しに指先で互いを慰め合った経験があり、その相手が沙良だったと信じていたのです。

香は脚本家として、同じ笹塚町出身の甲斐真尋に協力を求めます。二人は共に事件の真相を探るため、関係者への取材を開始します。しかし、美少女として知られた沙良に関する証言からは、意外な人物像が浮かび上がります。沙良は、表面的な美しさとは裏腹に、優秀な生徒に取り入っては嘘で陥れることで快感を得る、冷酷なサイコパスだったというのだ。この事実に直面し、香は幼少期にベランダで心を通わせた相手が沙良ではなく、その兄である力輝斗だったのではないかと思い至ります。

一方、真尋もまた、事件の取材を通してある衝撃的な事実にたどり着きます。それは、15年前に交通事故で亡くなった自身の姉、千穂が力輝斗と交際していたという事実です。さらに、サイコパスであった沙良が、兄を苦しめるために千穂を誘い出し、事故に見せかけて殺害した可能性が浮上します。この真相を知った力輝斗は、妹・沙良を刺殺するという凶行に及んだのだと推測される。火事と両親の死は、沙良を殺害した後の偶発的な事故だった可能性が高いが、生きる望みを失った力輝斗は全ての罪を被り、死刑囚となる道を選んだのだった。

物語の終盤、香は死刑囚となった力輝斗と面会します。幼い頃のベランダでの短い交流の記憶を語り合った二人は、かつてのようにガラス越しに指先を合わせ、互いの存在を確認するのだった。過去の事件の意外な真相が明らかになる中で、登場人物それぞれの抱える心の傷や闇、そして微かな希望が描かれていきます。

主要登場人物

長谷部香: 成功を収めた映画監督。過去の事件の真相を追う中で、自身の記憶や故郷の闇に向き合う。（テレビドラマでは北川景子が演じた）
甲斐真尋: 新人脚本家。香と共に事件を取材する過程で、自身の姉の死の真相とも向き合うことになる。（テレビドラマでは吉岡里帆が演じた）
立石力輝斗: 15年前の事件の死刑囚。妹と両親を殺害した罪で裁かれるが、その背景には隠された真実があった。（テレビドラマでは竹内涼真が演じた）
立石沙良: 事件の被害者である高校生。美少女の裏に隠された、冷酷で自己中心的なもう一つの顔を持つ。（テレビドラマでは久保史緒里が演じた）

書籍情報

単行本: 2019年9月3日発売 (角川春樹事務所)
文庫本: 2022年8月9日発売 (ハルキ文庫)

テレビドラマ

2023年9月10日から10月1日まで、WOWOW「連続ドラマW」枠で放送・配信されました。
主演: 北川景子

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