著作権に関する世界知的所有権機関条約

WIPO著作権条約：デジタル時代における著作権保護の強化

WIPO著作権条約（World Intellectual Property Organization Copyright Treaty、略称：WCT）は、世界知的所有権機関（WIPO）が管理する国際条約です。既存のベルヌ条約やTRIPS協定では対応しきれない、インターネットやデジタル技術の進展による新たな著作権課題に対処するために制定されました。

条約の目的と内容

WCTの主な目的は、デジタル環境における著作権の保護を強化することにあります。具体的には、従来の著作権法では明確に規定されていなかった、または十分に保護されていなかった事項について、新たなルールを設けています。

条約では、デジタルコンテンツの保護を重点的に取り扱っています。具体的には、以下の点が挙げられます。

デジタルコンテンツの譲渡・貸与に関する規定: 既存の条約ではカバーしきれない、デジタルコンテンツの新たな流通形態に対応しています。
インタラクティブ送信に関する規定: インターネット上でのリアルタイムな情報伝達などの新しい形態の著作物利用に関する保護を規定しています。
技術的保護手段に関する規定: デジタル著作物の複製や不正利用を防止するための技術的保護手段について、その有効性や回避行為の禁止などを規定しています。
著作物保護情報の変更禁止: 著作物の著作権情報（著作権者、著作権表示など）を無許可で変更することを禁止しています。

ただし、WCTはベルヌ条約を補完するものであり、ベルヌ条約で既に保護されている事項については、それを超える保護を規定していません。著作権保護期間の延長については、WCTでは規定されておらず、各国が独自に国内法で対応しています。

各国の対応

WCTの発効後、多くの国が国内法を整備して条約の内容を反映させています。

アメリカ合衆国: 1998年にデジタルミレニアム著作権法（DMCA）を制定し、WCTに対応しました。DMCAは、デジタル著作権侵害への対策として、技術的保護手段の回避や著作権管理情報の改ざんなどを違法行為としています。また、著作権期間延長も行われました。
欧州連合: 2001年の情報社会指令（2001/29/EC）で、デジタル著作物の保護、技術的保護手段の回避行為の禁止などを規定しました。加盟各国は国内法でこの指令を導入する義務があり、導入に遅れが見られた国々には、欧州委員会から欧州司法裁判所に不履行が通達された事例もあります。
日本: 1997年に著作権法を改正し、デジタル的保護手段の回避行為を不正競争防止法で禁止しました。2000年にWCTに加入し、発効当初からの締約国となっています。

各国は、それぞれの法体系や社会情勢に応じて、WCTの規定を国内法にどのように取り入れるかという点で、独自の対応をとっています。

WCTの意義

WCTは、デジタル技術の発展に伴い複雑化・高度化する著作権問題に対処するために不可欠な国際条約です。デジタルコンテンツの保護を強化することで、クリエイターの権利を保護し、文化産業の発展に貢献する役割を担っています。ただし、技術的保護手段の回避や著作権管理情報の改ざん行為など、デジタル環境特有の課題への対応は、条約の規定だけでは不十分な面があり、各国の継続的な努力と国際的な協力が求められています。

参考文献

文化庁編著『著作権法入門（平成17年版）』社団法人著作権情報センター、2005年
半田正夫『著作権法概説（第12版）』法学書院、2005年
斉藤博『著作権法（第2版）』有斐閣、2004年

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