葛籠

葛籠（つづら）について

葛籠（つづら）は、元々ツヅラフジの特長的なつるを用いて作られた蓋付き籠であり、現在では竹を使用した四角い衣装箱を指してこの名称が一般的に使用されています。ツヅラフジは丈夫で加工が容易であり、そのためこの素材が古代から籠の製作に利用されてきました。素材が変わっても、その名称は受け継がれており、漢字では「葛籠」と表記されるようになりました。この「葛」という字は、単体では「くず」と読みますが、別の読み方である「かづら」はつる植物を広義に指す言葉としても使用されています。

歴史

ツヅラフジを用いた籠は縄文時代から作られており、当時は運搬用として重宝されていました。特に、ツヅラフジを使用した葛籠は、正倉院で見られるようにその歴史的価値が認識されています。平安時代に竹の加工技術が進化すると、その特性から衣類収納に適した四角い箱が制作されるようになりました。江戸時代中期の文献『貞丈雑記』では、葛籠の素材として竹が使われ始めたことが記されています。

元禄時代には、江戸の商人・葛籠屋甚兵衛によって、婚礼道具としての規格サイズ（約87×53×45cm）の葛籠が開発され、一般の人々にも親しまれるようになりました。特に、明治から大正にかけては、東京・日本橋を中心に多くの職人が活動し、葛籠屋の組合も結成されるなど、最盛期を迎えました。

しかし、戦後は合成樹脂製品などの多様化に伴い、つづらの需要は減少しました。現在では東京都内で製作を行っているのは甘酒横丁（日本橋人形町）の一軒のみですが、訪日外国人の需要や特注品の製作依頼も増えるなど、変化を見せています。

製作手法

竹製の葛籠は、細い竹を使用し、縦横に編むことで四角い形を形成します。製作時には、中に和紙を貼り、その和紙は古い帳簿などから再利用されています。角部分には補強材として古い蚊帳の生地があてられ、その後、柿渋を塗布し、漆（現代ではカシューが多く用いられる）を施して仕上げられます。この過程で家紋を入れることも可能です。

特徴

葛籠は竹製であるため、軽量であり通気性にも優れています。柿渋と漆によって湿度が適切に保たれ、防虫効果や抗菌効果も期待できます。その耐用年数は100年以上ともされ、頑丈な作りが特長です。火事などの緊急時にも中の物を守りやすい性質があります。

その他の情報

かつては漆が主に使用されていましたが、近年では扱いやすさからカシューという合成樹脂が利用されることも多くなりました。「つづら」は「葛籠」以外にも、漢数字の「九十九」と結びつけられています。このことは、ツヅラフジのつるが曲がりくねっている点に由来しています。また、日光のいろは坂を「九十九折」「葛折」と呼ぶのも同じ根源から来たものです。日本のおとぎ話「舌切り雀」には、贈り物が入った大きな葛籠と小さな葛籠が登場します。

葛籠は日本の伝統工芸品としての重要な地位を持ち、その歴史的背景や機能性においても興味深い存在であると言えるでしょう。

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