柿渋

柿渋:歴史と可能性を秘めた天然素材



柿渋は、渋柿の未熟な果実発酵・熟成させて作られる、赤褐色の半透明な液体です。古くから日本において、その多様な特性を生かした素材として活用されてきました。

柿渋の歴史:平安時代から続く伝統



柿渋の利用は古く、10世紀頃の文献にはの下塗りとして使用された記録が残されています。平安時代には、下級武士が着用した「柿衣」と呼ばれる衣服にも用いられました。柿渋で染めた布地は、独特の色合いで知られ、時に桧皮で染めた布と混同されることもありました。

柿渋の性質:多様な機能性



柿渋は、防虫、防腐、防水といった優れた機能を有します。防虫や防腐効果は、柿渋に含まれるカキタンニンによるものです。一方、防水効果は、熟成過程での糖分発酵によって生み出されます。柿渋は吸湿性があり、空気中の水分を取り込み、発酵によって固化します。

ただし、皮革のなめしに用いられるタンニンとは作用が異なります。柿渋は皮に浸透しにくいため、皮革のなめしには適しません。また、発酵によって酢酸酪酸などの悪臭が発生することもありましたが、現代では精製技術の進歩により、無臭の柿渋も生産されています。

柿渋の製法:伝統と技術の融合



柿渋の原料となる柿は、カキタンニンを多く含む品種が選ばれます。未熟な果実を粉砕し、樽の中で2日間ほど発酵させます。これを圧搾して得られる液体を「生渋」と呼び、静置して上澄みを採取したものを「一番渋」、絞りかすを発酵・圧搾して得られるものを「二番渋」と呼びます。これらの液体を数年熟成させて使用するのが一般的です。

柿渋の用途:多岐にわたる活用



柿渋の防腐効果は、即身仏の防腐処理や、魚網・釣り糸の耐久性向上など、古くから様々な分野で利用されてきました。また、木工品や建築物の下地塗料、外壁塗料としても使用され、縄灰と混ぜて用いられることもありました。

紙に塗布すると硬く丈夫になり、防水性も付加されるため、うちわ、紙衣などの材料としても活用されてきました。現在でも、染色の型紙など、紙工芸の素材として重宝されています。

さらに、柿渋は清酒の清澄剤としても利用されています。タンニンが水溶性タンパク質と結合し、沈殿させる性質を利用したものです。近年では、シックハウス症候群を起こさない塗料として、再評価されつつあります。また、柿渋染めは独特の色合いで人気があり、染色にも利用されています。

近年注目されているのは、柿渋の抗ウイルス効果です。柿渋染めの布地は、かつて良質な水のろ過にも使用されていましたが、ノロウイルスなどの不活化効果も確認されており、柿渋を使った除菌スプレーなどの製品も販売されています。無臭柿渋を消毒用アルコールで希釈すれば、市販の消毒液と同等の効果が期待できます。

新型コロナウイルス不活性化効果



2020年、奈良県立医科大学は、柿渋に新型コロナウイルスを不活性化する効果があることを発見しました。試験管内試験で、柿渋と唾液に混ざったウイルスが無害化されることが確認されました。現在も、臨床研究が進められています。

その後、飴やタブレットに柿渋を配合した製品を用いた試験でも、新型コロナウイルスの不活化効果が確認されました。また、ハムスターを用いた試験では、肺組織における炎症抑制やウイルス伝播抑制効果も報告されています。ただし、2021年時点では、新型コロナウイルス感染症予防効果は確認されていません。

柿渋の希釈



柿渋は通常、原液で使用しますが、色合いを調整したり、ゲル化を防ぐために水で希釈することもあります。この場合、水道水ではなく、汲み置きの水を使用するのが望ましいです。硬水は成分が分離する可能性があるため、適していません。

まとめ



柿渋は、歴史と伝統に裏打ちされた天然素材であり、その多様な機能性と可能性から、現代社会においても様々な用途で活用が期待されています。今後も、柿渋に関する研究が進むことで、更なる可能性が明らかになるでしょう。

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