葬送と勝利の大交響曲

《葬送と勝利の大交響曲》

エクトル・ベルリオーズによって作曲された『葬送と勝利の大交響曲』（Grande symphonie funèbre et triomphale、作品15）は、彼の交響曲の中でも特異な位置を占める作品です。この曲は、大編成の軍楽隊による演奏を想定しており、当初は管楽器のみによる野外演奏が目的とされていました。後には弦楽器や合唱が加えられましたが、基本の管楽器部分はそのまま残されています。この点においても、オーケストラの通常の形式とは異なり、独自の表現を持つ作品といえるでしょう。

作曲の背景

1840年、フランス政府は7月革命の10周年を祝う記念式典を計画し、命を落とした英雄たちを称えるための音楽をベルリオーズに依頼しました。彼は、この式典に合わせて、野外での演奏に適した交響曲を作ることにしました。曲の構成は、葬列に関連する行進曲、追悼曲、そして式典を締めくくる讃歌という三つの部分から成っています。

ベルリオーズが短期間で作曲を仕上げることができた理由のひとつに、以前の未完成の作品を活用したことがあります。特に第2楽章の「追悼」は、未完のオペラ『宗教裁判官』の楽曲を転用しています。音楽的なアイデアを再利用することで、効果的に新しい作品を生み出しました。

初演の様子

初演は1840年7月28日にパリで行われ、ベルリオーズ自ら約200人の軍楽隊を指揮しました。彼は「葬送行進曲」と「アポテオーズ」を演奏しながら、数時間にわたって葬列に従ったと言われています。しかし、予定していた儀式の進行が近くで行われていた国民軍の行進によって妨げられ、当初のプラン通りには進みませんでした。それでも、彼は数日のうちに他のリハーサルや公演を行い、作品の再評価に成功しました。

さらに、1842年には、弦楽器のパートを追加して再演され、同年の秋には詞を持つ合唱も加えられることとなりました。この時から、作品の正式なタイトルが『葬送と勝利の大交響曲』に改められました。

演奏の編成

ベルリオーズが指定した演奏の編成は、音楽的にも物理的にも壮大さを持っています。管楽器の他に、弦楽器や合唱も加わることで、作品全体の音響が豊かになります。具体的には、ピッコロからホルン、トランペット、トロンボーン、さらには小太鼓や大太鼓などが含まれ、参加する人数は約389人にも及ぶこの作品は、オーケストラとしての規模が非常に大きいのが特徴です。

曲の構成と演奏時間

作品は約35分の演奏時間で構成され、以下の三つの楽章からなります。
1. 葬送行進曲（約20分）: ヘ短調で始まるこの楽章は、小太鼓のリズムから始まり、金管楽器などによる主題が引き継がれます。
2. 追悼: テナー・トロンボーンの独奏により、死者に対する追悼が奏でられ、この楽章は次の楽章へと続きます。
3. アポテオーズ: 変ロ長調であるこの楽章は、金管楽器のファンファーレから始まり、全管楽器が一体となって讃歌を歌い上げます。

演奏と録音

この作品は、特にフランスや欧米の宗教的な祭典や大規模な演奏会での使用に適しており、録音も多く行われています。しかし、日本ではまだその登場機会は限られているのが現状です。ベルリオーズの他の宗教的大作と並んで評価されるこの作品は、彼の独特な音楽スタイルを体現する重要な作品の一つであり、現代においても多くの人々に記憶され続けています。

参考文献

• - 『作曲家別名曲解説ライブラリー19 ベルリオーズ』
• - 『ベルリオーズとその時代』
• - 『不滅の大作曲家 ベルリオーズ』

このように、ベルリオーズの『葬送と勝利の大交響曲』は、その独自の構成や演奏形態から、音楽史において特異な存在感を放っています。

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