薄恕一

薄恕一：医療と文化を支えたタニマチの語源

薄恕一（すすき じょいち）は、慶応2年（1867年）に生まれ、昭和31年（1956年）に没した、日本の医師であり政治家です。彼は大阪府医師会の会長や大阪府会議長を歴任し、地域社会に大きく貢献しました。

医師としての献身

薄恕一は明治22年（1889年）に大阪市で「薄病院」を開業しました。医療保険制度が確立されていない時代に、彼は「貧しい人からはお金を取らず、生活に余裕のある人からは薬代を少しだけ、そして裕福な人からは多めにいただく」という信念を貫き、地域住民から深く信頼されていました。夜中に往診を頼まれても嫌な顔一つせず駆けつけ、病院は庶民的で親切な雰囲気だったと伝えられています。

好角家としての支援

相撲を愛した薄恕一は、力士たちへの支援も惜しみませんでした。幕下の力士たちを無料で治療したり、病院の中庭に土俵を作って稽古をさせたりするなど、物心両面から彼らを支えました。力士たちは彼を慕い、「タニマチ」と呼ぶようになり、これが相撲界における後援者を指す言葉の語源となりました。

教育への貢献

薄恕一は教育にも関心を寄せ、明治33年（1900年）には近所に開設された大阪府第一高等女学校（現大阪府立清水谷高等学校）の学校医に就任しました。また、大正8年（1919年）には故郷に図書館を設置し寄贈しました。当時としては珍しい学校図書館の設立は、教育への貢献として高く評価され、昭和8年（1933年）には文部省から図書館表彰を受けています。

政界での活動と挫折

薄恕一は政界にも進出し、昭和4年（1929年）に大阪府会議長に就任しました。しかし、昭和13年（1938年）に収賄事件に関与したとして有罪判決を受け、受章していた勲章を剥奪されるという挫折も経験しました。

直木三十五との深い絆

薄恕一は、作家・直木三十五の才能を早くから見抜き、物心両面で支援しました。直木は幼少期から薄病院に通院し、病院でアルバイトをして学費を稼いだこともありました。直木は薄への感謝を忘れず、自叙伝で「この人が居られたからこそ、今の自分がある」と綴っています。また、薄は直木の弟の名付け親にもなっています。

晩年と遺産

昭和31年（1956年）、薄恕一は89歳で亡くなりました。彼の死後、息子である薄政太が病院を継ぎました。政太もまた、写真家協会に参加するなど、文化的な活動を積極的に行っていました。

薄恕一は、医師として地域医療に貢献する一方で、力士や文化人を支援し、教育にも尽力するなど、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。彼の名前は、相撲界の「タニマチ」という言葉とともに、長く人々の記憶に残るでしょう。

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