薩埵峠の戦い (戦国時代)

薩埵峠の戦い：武田信玄と今川・北条連合軍の激突

薩埵峠の戦いは、戦国時代の永禄11年（1568年）12月から翌年4月にかけて、駿河国（現在の静岡県静岡市清水区）の薩埵峠を舞台に、甲斐の武田信玄と、駿河の今川氏真、相模の北条氏政の連合軍との間で二度にわたって繰り広げられた合戦です。

第一次合戦：武田軍の電撃的な駿河侵攻

永禄11年12月12日から13日にかけて行われた第一次合戦は、武田信玄の駿河侵攻によって勃発しました。今川義元の戦死後、今川氏真が家督を継ぎましたが、三河の松平元康（徳川家康）が離反。これを見た武田信玄は、長年の甲相駿三国同盟を破棄し、駿河を併合して「海への出口」を確保する方針に転じます。徳川家康との密約の下、両氏は大井川を境に今川領を分割することに合意しました。

12月6日、武田信玄は甲府を出発し、わずか6日後には駿河国に到達。この報に驚いた今川氏真は、庵原忠胤に1万5千の兵を率いて薩埵峠で迎え撃つよう命じ、自身も清見寺に陣を構えました。さらに、義父である北条氏康に援軍を要請し、武田軍の背後を突こうとしました。今川氏は、武田軍が駿府を攻めるには薩埵峠を経由するしかないと読んでいたのです。

12日、峠の東側で戦闘が開始。今川軍は善戦しますが、武田方は重臣級に内通を呼びかけ、朝比奈氏や葛山氏ら21名が武田方に内応しました。13日、身の危険を感じた今川氏真は清見寺を脱出し駿府に逃走、さらに賤機山城に籠城しようとしましたが、氏真の撤退は前線に混乱をもたらし、武田軍は薩埵峠を突破。同日中に駿府に突入し、今川氏の本拠地を陥落させました。

駿府陥落とその後

武田軍の先鋒である馬場信春は、賤機山城を占拠し今川軍の退路を断ちました。今川氏真は重臣・朝比奈泰朝のいる掛川城へ逃れました。この時、北条氏康の娘である氏真の正室・早川殿は徒歩で駿府を脱出したと言われています。

駿府を制圧した馬場信春は、武田信玄の命令に反して今川館を焼き払いました。これは、今川氏の財宝目当てで駿府を攻めたと思われたくないという、信春の意向によるものでした。一方、北条氏康は、娘が徒歩で逃げ出したことを知り激怒し、上杉謙信に「この恥辱そそぎがたく候」と書状を送っています。

第二次合戦：膠着状態とそれぞれの思惑

永禄12年1月18日から4月20日にかけて行われた第二次合戦は、北条氏の参戦によって始まりました。北条氏康は嫡男の北条氏政に4万5千の兵を率いて駿河に向かわせ、伊豆水軍を掛川城に派遣して今川氏を支援します。

これに対し、武田軍は薩埵峠を固め、両軍は睨み合いを続けました。武田信玄は佐竹義重や簗田晴助に北条領を攻撃させ、今川氏真や北条氏康は上杉謙信に武田領を攻撃するよう要請します。2月には、武田軍が大宮城に攻撃を仕掛けましたが、北条軍の援軍によって敗退。3月には兵糧補給の問題が発生し、両軍は本格的な戦闘を避けるようになります。

4月、武田信玄は穴山信君を江尻城に残して甲斐に兵を撤退させました。その後、北条氏政も相模に兵を撤退させ、徳川氏との交渉を開始しました。こうして、武田氏と北条氏の戦いは引き分けに終わりました。

戦後の影響

掛川城での徳川家康と今川氏真の籠城戦は、北条氏の仲介によって開城。その後、北条氏と徳川氏は同盟交渉を開始しました。これに対し、武田方も北条氏を牽制し、大宮城を攻略するなど、戦況は周辺諸大名を巻き込みながら新たな展開を迎えることになります。

薩埵峠の戦いは、戦国大名たちの勢力図を大きく塗り替えるきっかけとなりました。武田信玄の駿河侵攻は、今川氏の没落を決定づけ、戦国時代の後半における激しい戦乱を予感させる出来事でした。

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