葛山氏

葛山氏（かつらやまし）は、駿河国駿東郡葛山（現在の静岡県裾野市）を本拠とした武士の一族です。桂山とも表記されることがあります。

出自

葛山氏は、藤原伊周（これちか）の子孫とされる駿河大森氏の庶流とされています。系譜上では、伊周の孫である藤原（大森）親康の子、葛山惟兼（これかね）を祖としています。しかし、惟兼以降の系譜には異同が多く、不明な部分も少なくありません。また、御宿氏を葛山氏の庶流とする説もあります。

動向

鎌倉時代

鎌倉時代には、御家人としてその名が登場します。葛山景倫（かげとも）は、3代将軍源実朝に近侍し、渡宋の命を受けますが、その直前に実朝が暗殺されてしまいます。悲嘆にくれた景倫は、主君の菩提を弔うため出家し、「願性」と名乗って高野山へ上りました。そこで、心地覚心（法灯円明国師）と出会い、亡き主君の生母である北条政子から、紀伊国の由良荘の地頭職を与えられ、その地に西方寺を建立しました。その後、宋から帰国した心地覚心に西方寺を任せ、興国寺と改称しました。この興国寺に、心地覚心が弟子を伴い、その弟子の一人（虚竹禅師・寄竹）が尺八を良く吹いたことから、尺八伝来の地として全国に広まったとされています。

また、葛山小次郎（系譜上では「広重」）という人物が、実朝暗殺後の承久の乱で幕府軍の一員として北条泰時に従い従軍したことが『吾妻鏡』に記録されています。葛山広重は、系譜上の駿河葛山氏の祖であり、景倫（願性）は傍流とされています。この傍流の存在は、駿河以外の国々にも葛山氏が展開していたことを示しています。

鎌倉時代後期になると、葛山氏は北条氏得宗家との関係を強め、御内人に近い存在となっていきました。鎌倉時代末期に長崎円喜の邸宅で行われたとされる『鎌倉殿中問答記録』（今日では創作とみられている）には、葛山氏（葛山六郎左衛門尉）が北条氏一門・内管領長崎氏に次ぐ地位の人物として登場しており、当時の葛山氏が北条氏得宗家の家臣として相当の地位にあったと考えられています。

室町時代

鎌倉幕府滅亡時には、駿河葛山氏の中に北条氏得宗家と運命を共にせず、足利氏に帰参した者もいました。『太平記』には、畠山国清の反乱鎮圧の際に、伊豆国での兵粮米徴収を巡って、葛山備中守と平一揆がトラブルを起こす場面が描かれています。この備中守は、伊豆に近い駿河葛山氏の一員と見られています。

室町時代中期になると、駿河葛山氏の支配地域が鎌倉府の支配地域のすぐ外側に位置することから、室町幕府と鎌倉府の対立が深刻化する中で注目されることになります。正長元年（1428年）には、幕府が鎌倉府を恐れて京都に亡命していた甲斐守護武田信重に、甲斐と隣接する駿東郡佐野郷・沢田郷を与えようとした際、葛山氏が両郷は元々自領であったと主張しました。その結果、将軍足利義教の判断で、両郷は葛山氏に与えられることになりました。これは、室町幕府が鎌倉府の領域外に親幕府勢力を形成しようとする意図があったと考えられています。葛山氏は、室町幕府の奉公衆に加えられ、北関東における京都扶持衆と同様の役割を期待されました。一方で、駿河国の守護である今川氏の従属下にも入っており、今川家中で親幕府派として行動しています。永享の乱では、室町幕府から制度上は奉公衆として今川氏から自立しているはずの葛山氏が、今川氏の指揮に従うように命じられています。

足利義教の子である足利政知が堀越公方として伊豆国に下ると、駿河在国衆であった葛山氏は堀越公方の影響下に入り、京都の幕府中枢との関連が薄れていきました。明応5年（1496年）には、将軍足利義澄が葛山氏が御代始の御礼をしないことを理由に上洛を命じ、従わない場合には所領を没収するという内容の奉行人奉書を出しています。これは、伊勢新九郎宗瑞（北条早雲）が進めていた堀越公方足利茶々丸（義澄の異母兄）の討伐、所謂「伊豆討ち入り」に、堀越公方の影響下にあった葛山氏が非協力的であったことを暗に責めたものと解釈されています。その後、葛山氏は北条早雲の伊豆・相模平定に関わり、この縁で葛山氏の娘（善修寺殿）が北条早雲の元へ嫁ぎ、北条5代を支える北条幻庵が生まれることになります。さらに、氏広（北条早雲または氏時の子）が葛山氏の養子となり家督を継いだともされています。

戦国時代から滅亡へ

戦国時代に入ると、葛山氏は駿河国の守護である今川氏の分国下の国人領主として扱われ、今川氏から重用される一方で、後北条氏の一族としても存在感を示しました。葛山氏の所領は、武田氏が支配する甲斐とも接しており、非常に厳しい立場に置かれていました。そのため、葛山氏は各勢力の間を生き抜くため、様々な養子縁組を行い、武田氏には甥の御宿友綱を、北条家とは北条幻庵を始めとする親戚関係を築きました。しかし、今川義元が桶狭間の戦いで討たれたことで、この均衡は崩れます。

一時、北条氏や武田氏を頼っていた葛山氏元は、武田信玄が駿河に侵攻する際には、武田氏に味方しました。しかし、氏元は北条氏への内通の疑いで謀殺されてしまいます。氏元を殺害された葛山一族は、武田信玄に対して単独でクーデターを起こし反撃しましたが、最終的には滅ぼされました。その後、武田信玄は葛山氏の名跡を残すため、六男の葛山信貞に葛山氏の娘と結婚させ、婿養子として家督を継がせました（ただし、氏元が謀殺された前年には信貞が当主として記録に登場するため、氏元は当主の地位を譲らされた後に、信貞の立場を安定させるために粛清された可能性もあります）。

この家督も、天正10年（1582年）の織田信長の甲州征伐により、武田家と共に葛山信貞が甲府の甲斐善光寺において自刃したことにより滅亡しました。

子に関する伝承

『摂戦実録』によると、武田氏の家臣である御宿友綱の子で、大坂夏の陣で戦死した御宿政友は、葛山信貞の実子であるという伝説があります。また、御宿政友の弟である御宿貞友は、大坂の陣後に黒田家に仕えた後、出家して葛山信哲斎と名乗ったという伝承があります。
詳細は葛山信貞の項目を参照してください。

脚注

参考文献

有光友學「葛山氏の系譜」『戦国史研究』11号、1986年。/所収:『戦国史料の世界』岩田書院、2009年。ISBN 978-4-87294-540-9。
有光友學『戦国大名今川氏と葛山氏』吉川弘文館、2013年。ISBN 978-4-642-02912-4。
「葛山氏の態様と位置」/初出:有光友學編『戦国期権力と地域社会』吉川弘文館、1986年。
「葛山氏の軍事的位置」/初出:『地方史静岡』14号、1986年。
飯田悠紀子「葛山氏」下中弘編『日本史大事典 2』平凡社、1993年。ISBN 978-4-582-13102-4。
太田亮「国立国会図書館デジタルコレクション葛山　カツラヤマ」『姓氏家系大辞典』第1、上田萬年、三上参次監修、姓氏家系大辞典刊行会、1934年、1561-1562頁。 NCID BN05000207。OCLC 673726070。全国書誌番号:47004572。https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1130845/854 国立国会図書館デジタルコレクション。
杉山一弥「室町幕府奉公衆葛山氏」『国史学』172号、2000年。/所収:『室町幕府の東国政策』思文閣出版、2014年。ISBN 978-4-7842-1739-7。

関連項目

大森氏
御宿氏
葛山城 (駿河国)
* 藍沢原

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