薩摩の女

北島三郎の歌唱による「薩摩の女」（さつまのひと）は、日本の歌謡史において重要な位置を占める楽曲の一つとして知られています。

この楽曲は、1968年2月10日に日本クラウンからシングルレコードとして発売されました。当時の歌謡界において、特定の地域名を冠し、その土地の情景やそこに暮らす人々、特に女性の情感を描写する「旅情歌謡」が人気を博しており、「薩摩の女」もその流れを汲む作品と言えます。

「薩摩の女」は、北島三郎の代名詞ともいえる通称「女（ひと）シリーズ」を構成する楽曲群の一つとして位置づけられています。このシリーズは、1965年に発表された「函館の女」の大ヒットを契機に始まりました。港町・函館を舞台にしたこの曲の成功を受け、翌1966年には商都・大阪に近い港町「尾道」をテーマにした「尾道の女」、1967年には九州の玄関口として栄える「博多」を歌った「博多の女」と、毎年異なる土地を舞台にした楽曲が制作され続けました。「薩摩の女」は、これら一連のヒット曲に続くシリーズ第4弾として世に送り出されたものです。

楽曲の制作陣は、作詞を数々のヒット曲を手掛けた星野哲郎、作曲・編曲を島津伸男が担当しました。星野哲郎による歌詞は、鹿児島県を舞台にしており、その土地を象徴する具体的な地名が効果的に織り込まれています。

歌詞の一番では、鹿児島の中心的な繁華街であり、ショッピングやグルメが集まる賑やかな場所である「天文館」が登場し、都会的な雰囲気を漂わせます。二番では、鹿児島のシンボルとして国内外に知られる活火山であり、雄大な姿を見せる「桜島」が歌われ、自然の壮大さを感じさせます。そして三番では、桜島と鹿児島市街地を隔て、穏やかで美しい景観が広がる「錦江湾」が描写されており、これらの地名が楽曲全体に奥行きと色彩を与え、聴き手に薩摩の風土や情景を鮮やかに想起させます。

このシングルには、「薩摩の女」のカップリング曲として「霧島エレジー」が収録されています。こちらもまた鹿児島県に位置する霧島を冠した楽曲であり、作詞は水沢圭吾、作曲は関野幾生、編曲は小杉仁三が手掛けています。「霧島エレジー」もまた、薩摩の土地にまつわる情感を歌い上げており、「薩摩の女」とともに、郷愁や旅愁といったテーマを共有する楽曲と言えるでしょう。

「薩摩の女」は、発売から半世紀以上が経過した現在も、北島三郎の代表的なレパートリーの一つとして多くの人々に親しまれています。その人気の根強さは、後年にリリースされた様々なアルバムに繰り返し収録されていることからも伺えます。

例えば、2004年に発売された『【函館の女】〜女シリーズ〜その女をたずねて』や、2007年にリリースされた『その女をたずねて〜函館から沖縄まで〜』といった、シリーズ全体を網羅したり、旅情をテーマに選曲されたアルバムに必ずと言ってよいほど収められています。これは、「薩摩の女」が単なる一曲としてだけでなく、「女シリーズ」という北島三郎のキャリアを象徴する重要な要素を構成する楽曲であることを明確に示しています。

このように、「薩摩の女」は、北島三郎の「女シリーズ」における一里塚として、特定の地域性を深く掘り下げた歌詞と、親しみやすいメロディーによって、発表当時から多くの聴衆の支持を集めました。そして時代を超えて歌い継がれることで、日本の歌謡曲史における地域をテーマにした楽曲の代表例として、確固たる地位を築いているのです。

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