薬丸兼教

薬丸兼教（やくまる かねのり）

薬丸兼教は、生年不詳ながら1945年（昭和20年）6月23日に戦没したとされる、昭和期の陸軍軍人であり剣術家です。薬丸自顕流第十二代宗家である薬丸兼吉の息子として生まれました。最終階級は陸軍中佐。

経歴

薬丸兼教は、陸軍士官学校第48期を卒業後、1943年（昭和18年）には陸軍大学校（第57期）を卒業しました。陸軍士官学校では、昭和天皇の弟である三笠宮と同期であり、宮の五人のご学友に選ばれるほどの優れた人物でした。その卓越した能力から、陸軍士官学校教官などを務めた後、沖縄戦では第32軍司令部情報将校（陸軍少佐）として、牛島満司令官を補佐しました。

1945年（昭和20年）6月18日、ゲリラ戦指揮の命を受け司令部を出立しましたが、その後の消息は不明であり、戦死したと推定されています。父である薬丸兼吉は、本来であれば薬丸自顕流十三代宗家となるはずであった長男の死を深く悲しみ、「薬丸流は自分の代で終わりにしたい」と語っていたと伝えられています。兼吉の死後、薬丸自顕流宗家の証ともいえる薬丸家文書は、当初兼吉の長女の夫である樋之口一夫氏のもとで保管されていましたが、現在は樋之口家の意向により、鹿児島県歴史資料センター黎明館に寄託されています。

薬丸自顕流宗家の家柄に生まれた薬丸兼教は、幼少の頃から厳しい修行を重ね、常人離れした筋力と腕力を身につけていました。陸軍士官学校教官時代には、その強さから『一発パン』という渾名で呼ばれていました。これは、薬丸兼教から平手打ちを受けた生徒があまりの衝撃に吹き飛ばされてしまったことに由来するといわれています。

人物

薬丸兼教は、その武術の腕前だけでなく、人格的にも優れた人物であったと考えられています。三笠宮の学友に選ばれたことや、陸軍士官学校教官を務めたことからも、その知性と人望の高さが窺えます。また、沖縄戦という過酷な状況下で、司令官を補佐する情報将校として任務を遂行したことは、彼の責任感と忠誠心の強さを示すものです。

薬丸自顕流について

薬丸自顕流は、薩摩藩に伝わる古流剣術の一つです。独特の構えと激しい動きが特徴であり、実戦的な剣術として知られています。薬丸兼教は、この流派の宗家の息子として生まれ、幼い頃から修行を重ねたことで、その技を体得し、並外れた力を身につけました。

脚注

* 秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年。

もう一度検索