藤屋窓月堂

三重県伊勢市に店を構える有限会社藤屋窓月堂は、長い歴史を持つ和菓子メーカーです。その起源は明治時代に遡り、元々伊勢神宮に仕える神職であった藤波家が、当時の社会の変化に伴い菓子製造業へと転身したのが始まりとされています。

藤波家は代々家業を受け継ぎ、看板商品である利休饅頭は多くの人々に親しまれてきました。政治の世界で労働大臣や内閣官房長官といった要職を歴任した藤波孝生氏は、この藤屋窓月堂の長男として生まれ育ちました。早稲田大学卒業後、一時実家に戻り家業に携わりましたが、衆議院議員への立候補を決意した後は、弟の藤波俊也氏がその後を継ぎ、家業を担いました。

藤波俊也氏が代表を務めていた時期には、地域の大型商業施設である阿児ショッピングセンターや伊勢ショッピングセンターへの出店を進めるなど、積極的に事業の拡大を図りました。しかし、時代の変遷と共に経営戦略を見直し、2007年には阿児ショッピングセンターから、2017年には伊勢ショッピングセンターからそれぞれ撤退しています。その後、俊也氏は代表の座を譲り、相談役として会社を支える立場となりました。

そして、老舗の新たな時代を担う6代目として代表に就任したのが、吉尾雄介氏です。吉尾氏は藤波家の出身ではなく、千葉県で和菓子職人としての腕を磨いた人物です。専務取締役を経て現職に就任した彼は、伝統の味や技法を大切にしながらも、革新的な試みに積極的に取り組んでいます。地域との連携を重視し、地元の三重県立明野高等学校の生徒たちと協力して新しい菓子を開発したり、三重県内で高く評価されるフレンチレストランのシェフと共同で「月と犬」というユニークなコラボレーションブランドを立ち上げたりするなど、和菓子の可能性を広げるための活動を精力的に行っています。

藤屋窓月堂の代表的な商品には、長年愛される利休饅頭のほか、新しい取り組みから生まれたものもあります。「月と犬」ブランドからは、干し無花果のどらエピスや橙～Daidai～といった、和洋の枠を超えた斬新な菓子が誕生し、注目を集めています。

伊勢の歴史と共に歩んできた藤屋窓月堂は、神職から菓子職人への転身という異色の創業背景を持ち、政治家を輩出した家系としても知られています。歴代当主が時代の波を乗り越えながら事業を継承し、現在の6代目・吉尾雄介氏のもと、伝統の継承と地域連携、異分野協業による革新を両立させることで、老舗の新たな価値創造を目指しています。伊勢の地に息づく伝統と、未来を見据えた挑戦が融合する藤屋窓月堂は、これからも和菓子を通じて多くの人々に喜びと驚きを提供し続けることでしょう。

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